右から左に、ページをめくる。目を通すのは、左上から。沈む前の、一番熱くて一番眩しい光が差し込む部屋で、一人黙々とそれを続けていた。1ページめくる度、そこに写る君は幼くなっていく。既に2冊眺め終えて、3冊目に突入した。初めは、僕もよく知る高校生だった君が、めくる毎に時を遡っていく。2冊目は中学生くらいから、そして、今見ているページでは小学生くらいに。あと1冊残っているが、こっちでは保育園時代の君が見られるのだろうか。
なんとなくお化け屋敷で鳴っていそうな音を立てて、部屋のドアが開いた。お母さんの手伝いを頼まれたらしく買い物に行ってしまった君が戻ってきたのだ。手にはお盆が乗っていた。冷たい麦茶の入ったグラスが2つと、菓子盆に積まれたお菓子達。載せられているカラフルなパッケージを見るに、さっき買い物に行った君がついでに買ってきたものだろう。
「お待た〜。……って、なんでアルバム見てんの?」
机にお盆を置いて、彼がすぐそばに寄ってくる。懐かし〜、なんて言いながら、君は僕の肩越しにアルバムを眺めた。途中でふと問われた。どうして逆から見ているのかを。過去の君まで見たかったからからとか、色々と理由はあった気がしたが、上手く言葉にできそうにない。僕が言い淀んでいると、彼は不思議そうにした後すぐに笑い出した。何がそんなに琴線に触れたのかは分からないが、彼が楽しそうだから気にしないことにする。
ページをめくる度、僕の知らない君が姿を現す。膝に大きな瘡蓋を作ってピースしていたり、泥んこになって満面の笑みを浮かべていたり。高校生からの彼しか知らない僕は、これらの実物を見ていない。それに、高校生にもなってこんなことをする人はそうそう居ないだろう。けれど、なんとなく、泥だらけになって、擦り傷を作って笑う君の姿は想像に難くなかった。アルバムを逆から見ていたのは、2人で未来を歩みたくて、1人で君の過去を歩きたかったなのかも、なんて、質問から随分経ってから思い至った。
ちらりと君の横顔を盗み見る。思い出に浸るように、楽しそうに笑っている君の顔は、手元のアルバムの幼い笑顔と遜色ないくらい溌剌としていて、眩しくて。口下手で、大して面白い話もできない僕なんかが一緒に居ていいのかと心に暗雲が立ち込めかけるが、彼の笑顔はそれさえ晴らしてしまった。
元気いっぱいの子犬のようであり、全てを照らす太陽のような彼と、この先、今度は左から右にページをめくって、一緒に思い出に浸れるように。この先、アルバムが何十冊あっても足りなくなるくらいの未来でも一緒にいられたらいいな、なんて漠然とそう思った。
テーマ:ページをめくる
9/2/2025, 4:32:10 PM