大きく口を開いて、緊張とともに歯を立てる。
それが赤だったか橙だったか、はたまた紫であったのか。それは定かじゃない。
ただ、仄かな果汁で染まった艶やかな鴇色だけを覚えている。
恥ずかしげもなく音を立てて果実にかぶりつく君は、形容し難い美しさを醸し出していた。
何れコクリと呑み干すと、物惜しむのもそこそこにほぅと息を吐く。
ふわりと肩を撫でる髪の向こう。上気した表情ではにかんだ君は一瞬キョトンと驚いたような顔をして、くしゃりと笑った。
たぶん、僕は笑っていたのだと思う。
そこからはただ、二人笑っていた。
『隠された真実』
7/13/2025, 3:41:01 PM