「アタシは昔っから賭け事が好きでねェ」
煙草をふかしながら男が言う。
線の細い男だ。
細められた目と弧を描く口元。体には仕立ての良いスーツをまとっている。
それでもゾッとするような怖気を感じさせるのは、その手で弄ばれる拳銃のせいか。
「特に、あとに引けなくなった人間が神サンに縋る情けない姿なんかたまらねェよな」
男の背後には、吸い込まれそうなほどに黒い箱が2つ。
それぞれ「丁」「半」と書かれた紙が貼られたそれは、中々に大きい。
出口は男の後ろに一つだけ。
「サ、アタシと一つ賭けましょうや」
男の手が拳銃に弾を込める。
こんなにも状況を冷静に捉えようとしてしまうのは、どうにか生き残ろうと道を探す生存本能故か。
もはや両足は潰され、逃げる方法などありはしないのに。
「さっきもお伝えした通り、あの箱のどっちかにはアンタの娘サンが入ってる。アタシはそのどっちかを撃つが、どっちを撃つかはアンタが選びな」
涙も鼻水も流し、失禁すらしながらの命請いにも意味がないことはもう分かっていた。
「さァ、丁か半か!!張った張ったァ!!」
煽られるように言われ、ガタガタと震えながら口を開く。
己が伝えた選択肢に、男がニンマリと笑ってみせた。
「アタシとアンタ、どっちが勝つかは―――」
7/4/2023, 12:45:29 PM