G14

Open App

「お前らの任務は、命が燃え尽きるまで地底人共を殺す事!
 全員分かったな?
 では死んでこい」

 上官は、頭の痛くなるような訓示を俺たちに浴びせてくる。
 文字通り前時代的な発言であり、とても現代に生きる者の発言とは思えない。
 しかし上官の無慈悲な命令に、異を唱える者はここにはいない。

 別に諦めの境地に至っているわけではない
 そのくらいの気概が無ければ、人類に未来は無いと思っているからだ。

 一年前の事だ。
 突如、地底人が現れて人類に猛攻撃を仕掛けてきた。
 人類は抵抗したものの、地底人の持つ圧倒的な科学力に為す術なく敗北した。
 豊かな土地から追い出され、人類は住むには適さない土地でほそぼそ暮らしていた。

 だがそこで諦める人類ではない。
 地底人に対抗するため、人類は新兵器を開発。
 地底人たちに攻撃を仕掛けることになったのだ。

 だが地底人との技術差は歴然。
 新兵器をもってしても、命の保証はなかった。
 誰だって死ぬのは怖い。
 ほとんどの人間が、戦場に行く事にしり込みした。

 死ぬことが分かっていても決死隊に志願した愚か者たちがいた
 それが俺たちである。

 俺たちは地底人たちを殺すため、新兵器の訓練を行うことになった
 厳しい訓練にもかかわらず、脱落するものはいなかった。
 
 そして運命の日。
 地底人たちがたむろする都市部に突入することになったのだが……

「司令部、こちらアルファ。
 地底人共が見当たらない」
「こちら司令部。
 他の突入組も遭遇してない
 何か妙だぞ」

 地底人がいると思わしき建物に入った俺たち。
 慎重に建物を探索するものの、一匹も地底人に遭遇することは無かった。
 拍子抜けするほど何も無いがは、油断しないよう気を引き締める

「ここまでなにも無いとは……
 罠か?」
「その可能性はあるな。
 でなければ逃げ帰ったかだ」
「あれは!」
「どうしたアルファ?」
「少し待て」

 俺は、遠くの方に倒れている地底人を発見した。
 ここから見る限り微動だにしない。

「地底人がいた。
 いまから近づく」
「なんだと。
 罠かもしれん。
 無茶をするなよ」
「了解」

 なぜ倒れているかは分からないが、罠の可能性も考慮して慎重に近づく。
 だが不気味なほどに何も起こらなかった。
 死角からの不意打ちも警戒しつつ、動かない地底人を観察する。

「こちらアルファ、見つけた地底人だが、すでに死んでいる」
「なんだと!?
 仲間割れか?」
「おそらく餓死だ。
 前見た時より、かなりやせ細っている」
「地上の食いものが合わなかったか?」
「それも考えれれるが……
 近くに部屋がある。
 覗いてみよう」
「気をつけろよ」

 俺はゆっくりと、部屋の扉を開ける。
 気づかれないように慎重に、気づかれても即反撃できるように……
 だが、その心配は杞憂だった。
 部屋の中は、さっき見つけた地底人と同じように全員死んでいたからだ。

「こちらアルファ。
 部屋の中のやつらは全て死んでいる」
「なんだと!?
 アルファ、周辺を調べてくれ」
「了解……

 これは!?」

 死んでいる地底人が手に持っている物……
 それはゲーム機のコントローラーだった。
 他の地底人にの手には、漫画や小説、果てはスマホが握られている。
 どれも、人類の生み出した娯楽の品ばかり

 状況から導き出される答えに、俺は唖然とする。
 認めたくないが、こいつらは……

「こいつら、寝食を忘れて遊んでいたと言うのか……
 餓死するまで……」

 確かに俺も、飲まず食わずでゲームをしたことがある。
 子供の頃、ではなく大人になってから。
 子供時代に禁止されていた反動で、大人になってのめり込んでしまったのだ。

 俺は途中で気づけたが、地底人たちは死ぬまで気づけなかったらしい。
 目の前の面白い事に夢中で、食べるのも忘れ、そして死んだ
 もしかしたら死んだことにも気づいていないのかもしれない
 これは有り得たかもしれない、俺の姿だ。

 命燃え尽きるまで、快楽を貪った地底人たち。
 彼らはきっと、今まで本当に面白いものに出逢えたなかったのだろう。
 他の仲間たちも地底人に遭遇しないと言うから、他も同じような状況かも知れない
 それを思えば地底人も同情すべき存在なのかもしれない。

 もし地底人たちが武力ではなく、言葉を持って人類に接すれば……
 あるいは、途中で和解の申し出をすれば……
 きっと違う結末があっただろう

「バカなことをしたもんだ」
 最初から最後まで道を違えてしまった地底人に、俺は冥福を祈るのだった

9/15/2024, 3:25:53 PM