安達 リョウ

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喪失感(過ぎ行く想いとは裏腹に)


―――何がどうしてこうなった、と思う。

三階の教室のベランダの手摺に身を預けながら、俺はすぐ真下を歩いて行く二人の姿を目で追う。
ひとりは幼馴染みの彼女、ひとりは隣のクラスの顔なじみの男子。
見るからに仲睦まじげな彼らの様子に、俺は物憂げに何度目かの溜息を吐く。

「何だ何だ、辛気臭えなあ。何見てんの」

………嫌なヤツに気づかれた。
素早く隣を陣取ってきた腐れ縁のそいつに、俺は憚ることなくあからさまに表情を負の方へと崩してみせる。
「あれ、あいつカレシできたのかよ。どうりで最近やけに浮かれてると思ったら」
彼氏。
直球の単語が容赦無く心にめり込んで、息が詰まる。
あいつとはずっとただの幼馴染みだったはずなのに、なのにどうしてこんなにも二人の姿を見せつけられて俺は動揺してるのか。

「………。悔しいのか?」
「! なわけねえだろ。何もねえよあいつとは。幼馴染みの枠越えたことなんかなかったし」
「………あっそ。俺はただ『幼馴染みを取られたみたいで』悔しいのか?って聞いたつもりだったんだけどな。いやそういう解釈できますか、そうですか」
含みを持たせた言い方が何とも癪に障る。
こいつ、知っていてわかった上で喋ってやがる。
俺は即座に食ってかかろうと構えてはみたものの、―――バカらしくなりやめた。
更に虚しくなるのは火を見るよりも明らかだった。

「………俺はいいんだよ別に。好き同士くっついたんだから、何の異論もねえよ。それにどう足掻いたって今更すぎるだろ」
えー、と不服有り有りの声が隣から漏れる。
「なんて高尚な。俺には無理だわ、その境地には辿り着けん」
―――その、どこか蔑んだ響きを孕んだ声色に、俺は思わずヤツの胸倉を引っ掴んだ。

「お前に何の関係がある? 俺を怒らせて楽しいか? あ?」
胸倉を掴まれてもなお、いやあ、とヤツは飄々としている。
こいつが今程憎いと感じたことは他にない。

「すれ違いの両片想いはもどかしいね」

………。は? すれ違い?
両片想………い?

どういうことか、真相を問い正そうと口を開きかけた俺に、ヤツは意味深な笑みを残して脇をすり抜け教室へ戻って行ってしまう。

そんな大いに戸惑う俺とは対照的に、視界に入る二人は幸せを絵に描いた姿そのもので―――
俺は掌から溢れ落ちた、失ったものの大きさに、打ちひしがれ言葉もなく立ち尽くしていた。


END.

9/11/2024, 6:43:39 AM