【冬休み】
社会人になって早数年。
冬休みなんてものは存在しない会社に就職してしまったためこの時期は繁忙期として大変な目にあっているが、世間が年越しのために慌ただしく変わっていく季節は嫌いではない。
この寒さが一段と深くなり新年を迎える準備のような澄んだ空気の香りは学生時代の大切な記憶が引き出される。
今はもう会うことの無い大切だった人……
お互いがずっと隣にいるのが当たり前だと思い込んでいたあの頃の記憶だ。
ーーー遡ること数年前
高校生活最後の学年。
あの日も年末近くの澄んだ空気の香りがする冷え込みの厳しい天気だった。
駅に到着した電車をおり、学校に向かう学生たちの列に紛れ込みながら目的の人物を探す。
あの人のことだからおそらくまだいないだろうが……
一応周囲を慌ただしく行き交う人々の中を探してみる。
それらしい人がいないのを確認して学生たちの群れからそっと抜け出し、建物の隅に寄る。
背負っているリュックの中身が潰れないこと祈りながら建物に背中を預け、ポケットからスマホを取り出す。
案の定あの人から寝坊したから到着が少し遅れるという連絡が入っていた。
まあそんなところだろうと時間を潰すために日課であるネット小説を読み始める。
「おはよう。遅れてごめんね」
そんな声が聞こえてびっくりして顔を上げるとかなり急いだのか少し息を切らしたあの人が立っていた。
いつもなら近づいてきたときには気づくのに今日はちょっと小説に集中しすぎたみたいだなぁと少し反省しながら遅れてきたことに文句を言う。
「おはよ。今日も遅かったね。昨日もあれだけ早く寝ろと言ってたはずなんだけど、どうせまた夜更かししてたんでしょ」
「ほんとごめんって。これでもめちゃくちゃ頑張っていつもより早く寝れたんだよ?まあ言い訳にしか聞こえないと思うけどさぁ。お詫びになんか奢るよ」
「言い訳は一応聞いておくけどさ。はぁ、まあちゃんと寝れたのならよかったよ。今日はなにを奢ってもらおうかな〜」
「明日から冬休みに入るからあんまり高いものはなしだよ。遊ぶお金無くなっちゃう」
「えーケチだなぁ遅れてきたくせに。許さんぞ?」
そんなことを話しながらいつも通り学校への道を歩く。
誰かさんが寝坊をしたせいで同じ電車に乗っていた生徒たちの群れとはかなり離れてしまって、周りに同じ学校の生徒はほとんど見当たらない。
最初の頃は遅刻したらどうしようとかみんなと離れて迷子になったらどうしようとかちょっとマイナスだったり変なことを考えてた気がする。
でも、今は周りを気にせずあの人とふざけたような他愛もない会話をしながら歩けるこの時間が案外気に入っていたりする。
「何を奢ってもらうかは帰るまでに決めておくよ。楽しみだなぁ!」
「うん。ちゃんと決めておいてね。その反応はなんか怖いんだけど?あんまり高いの無理だからね?」
「わかってるってー。そういや今日って終業式とそのほかの連絡事項だけで午前で帰れるよね?」
「確かそうだったはずだよー。何もしないけど早く帰れるのってテンション上がるよね。」
「それな?なんもないけど終業式だけで帰れるの嬉しいよね。今年は課題少ないといいなぁ……」
「課題は頑張るしかないさ!あっ今日って部活とか特に予定ないよね?奢る約束もしたし一緒に帰ろうぜ」
ーーーー一旦保存ーーーー
12/29/2024, 6:19:19 AM