浴衣着て仲良さそうに笑う子。
真剣に屋台を営むおじさん。
表情はそれぞれだけれど、皆生き生きしている。
でも、私の表情はきっと、沈んでる。
きっと、皆は知らない。
このお祭りの、本当の意味を。
これは事実を覆い隠すためのもの。
それを知っているのは、私とごく一部の人だろう。
年に1人、その事を知る人が1人、増える。
そして年に一人、その事を知る人が1人、減る。
もう、そういう漫画とかが好きな人は察したかな。
そう。生贄。
この土地の神様は、毎年作物をしっかりと実らせる
代わりに、土地の子を1人喰らう。
私はその1人に選ばれたんだ。
どうやって選ぶのかは分からないけれど。
お前1人の犠牲で、この土地に住む人は1年安心して
暮らすことが出来る。
そんなこと言われたら、生きがいも無い私は
生贄になるしかないよね。
皆浴衣姿の中、私は1人豪華なお着物を着て、
神社の裏でひっそり佇んでいた。
生贄の事を知る人も神社の裏に集められている。
罪悪感からか恨みを買わないためか、
私の目を見ない。
そんな中、ざっざっとこちらに走ってくる人が1人。
クラスメイトの男の子だった。
「なぁ、神凪。俺、来年そっち行くから。…。会えねぇかもしれないけど。だから、その……。」
「あぁ、そうなんだ……。良いんだよ。気を使わなくて。きっと辛いのは一瞬。」
「でも……!!」
「時間だ。」
「あぁ!ちょっと位待てや!!」
何か叫んでいる。
もう、何も聞きたくない。
だけど、
だけど、
彼が「でも」何て言おうとしたのか、気になる。
あぁ、ちょっと位待ってよ神様。
まだ、まだ死にたくないよ……!
私、彼の言葉が聞きたい。
だって私、彼の事が…………………!
もう、土地の人なんてどうでも良い…!
お願いだから、神様……………!
そんな願望は叶うはずもなく、
私はそっと、生贄を捧げる為の井戸に
突き落とされたんだ。
「お祭り」
7/28/2022, 11:38:54 AM