予兆は有った。でも、まだ。まだ大丈夫。元気になって帰ってくると思っていた。思いたかった。
熱が下がったらそのまま逝ってしまうかもしれません。そう、先生に言われた。だから覚悟していてくださいと。
夕方に集中治療室で面会をした。熱が少し下がりかけて、ドロンとしていた瞳に少しだけ元気が戻っていて。
あぁ、戻って来れる。帰ってきてくれる。そう、思った。面会に行ったら、嬉しそうに家族を見て一言ずつ話してくれた。もう、手しか動けないのに体を持ち上げて。安心した。
だからまた明日ねって別れた。
早朝だ。
未だ陽も上がらない時間に電話が鳴った。
だめだったんだ。ダメだったんだ。
病院から連れて一緒に寝て過ごしてあげれば良かった。
そんな悔しさでいっぱいだった。
病院に着いたら先生が必死に、延命しようと心臓マッサージをしていた。
小さな、小さな体がわずかな時間でも家族に見送ってもらえるように。必死に鼓動をうっていた。待っていてくれた。
誰が先とも言わず家族みんなが名前を呼んだ。
呼んだ。
逝かないで。
帰ってきて。
お家に帰ろう。
心肺停止の音が鳴っても先生は延命のマッサージをしてくれた。家族みんなが泣いていた。
逝かないでから、
頑張ったね。
偉いね。
ありがとうねに変わって別れを告げた。
突然ではないと人は言うかもしれない。
でも、どんなに覚悟の時間があっても。
別れは突然訪れたように感じる。
5/19/2022, 3:39:57 PM