ひとひら
春の生暖かい風に吹かれ満開の桜が散っていく。
「おめでとう」と辺りを埋め尽くす声を後ろ背に、目的の場所まで歩みを進めた。
正門の並木通りの立派な桜の木よりも些かまだ小さい桜の木の木陰で佇む人に声をかけ、どきどきと高鳴る心臓を落ち着かせるように深呼吸して、その人が振り返るのを待つ。
振り向いたその双眸に、ずっと憧れていたその人と同じ制服に身を包んだ私を喜んで映してくれるだろうかと不安になる。
静かに細めらた瞳にじっと見つめられなんだか恥ずかしい気持ちにもなってきて、居た堪れなくなった。
何か言えっと怒鳴りそうになった私に向かってその人は優しく微笑んだ。
私の大好きな顔で「おめでとう」って言うと、桜の花びらがひとひら舞った。
その春のひとときが、ずっと私の心の中に居座り続けている情景だ。
4/13/2025, 1:46:28 PM