ゆうべに

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「入道雲」

 入道雲が嫌いだ。
 故郷の夏を思い出すから。

 都会より高く感じる空の下、麦わら帽子を被ってとうもろこしを収穫して運んで。
 ご褒美にもらったアイスをあなたと食べた。
 二人とも春になったら故郷を出ていくことが決まっていたから、不安を打ち明けあって互いに励ました。
 あれは昨年の夏のこと。

 四ヶ月ぶりに帰郷して、あなたは帰って来ないと聞いた。
 アルバイトに精を出しているだとか、都会が楽しいのだろうとか、周りの人たちは好きなように言っていた。

 会いたかったな。
 縁側で寝転がって、雲が流れていくのを眺めてつぶやく。

 思い出すのは夏の空を背に笑うあなたの顔。

 入道雲が嫌いだ。
 私だけがあの夏に囚われていることを思い知らされるから。
 
 
 
 

6/29/2024, 11:52:51 AM