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昔、一つの指輪を友人から預かっていた。
金でできた歪な形の刻印が入っている指輪。砂時計のような模様が異質さを漂わせていたことが印象的なその指輪は、不思議な力を持っていたらしい。
友人が言うには、その指輪は過去に戻ることが出来る力を持っていて、使うことの出来る条件は限られている。一つは明確な過去に戻って何をするかという願望を持っていること。もう一つはソレを発動させるほどの力。ありえない話、魔力を持っていること。
大まかな条件はこの二つ。例外はあるようだが絶対的にその二つを持っていなければ指輪の力を使うことは出来ないらしい。

預かった当初はそんなことは知らなかった。
ただ友人に『死ぬまで持っていて欲しい。』と言われたから約束通り持っていただけ。
四年も失踪していた彼からの最後の言葉が指輪に関することだったからというのもあるけど、捨てる気にもなれなかったから持っていたのだ。

その指輪に違和感を持ったのは、いつも通り過ぎていく日々のほんの一瞬だった。持っていろと言われた手前、そこら辺に置くのは抵抗があった俺は指輪をネックレスにして首から下げていた。正直女避けにもなるしちょうど良かったこともあるが、何より少し目を離したらどこかへ消えていくような漠然とした不安があったのもある。

「その指輪、変な形してますね。」

学生時代の部活の後輩と久しぶりに飲もうとなった時、ふと指輪を見た後輩が言った。

「俺の母親ジュエリーショップで働いてて、昔から色んな宝石を見てきたんですけど。その砂時計の真ん中にある小さな石、今まで見たことないです。どこで買ったんですか?」

後輩はほろ酔い状態なのか楽しそうに指輪を見ている。小さな石?今まで気づかなかったことに驚き、ネックレスを外して、貰った時以来初めてじっくりと見つめた。よく見ると砂時計の砂を表す部分に青い宝石がついていた。
けれど、青い宝石なんて誰でも見た事があるはずだ。サファイアなどは有名な部類ではなかろうか。と後輩の方を見ると、わかってませんねぇと彼は顔を赤くしてニヤリと笑う。

「その指輪、月明かりに照らされると赤く光ってるんすよ。ずっと首につけてるから気づかなかったのかもしれないですけど、街灯のない道で綺麗に光ってて驚きました。べキリーブルーガーネットって知ってますか?その宝石は太陽のもとだと青くなるんすけど、白熱灯に照らされると赤くなるんです。最初はそれかなと思ったんですけどねぇ。どうも、街灯に照らされるとすぐに青くなるんで、俺の知ってる宝石じゃないなって。」

酔いが回ってきたのか、砕けた話し方になってきた後輩に代わって水を頼む。これ以上飲ますのはアルコールに弱い彼に良くなさそうだ。

後輩の言葉に引っかかった俺は、その日から指輪のことについて調べ始めた。
市の図書館、県の図書館、国の図書館、古本屋など手当たり次第に調べてみたが、指輪に関する文献は見つからず。時間がただただ過ぎていくだけだった。


「…?じゃあなんでお兄さんは、指輪のことを知ってるの?調べても見つからなかったんでしょ?」

目の前の少女は小さな頭をこてんと傾げて丸い瞳で俺を見つめている。その瞳に映る自分自身は、指輪を持っていた時よりもだいぶ若かった。
目を瞑ると、今でもまぶたに焼き付いて離れない景色がある。絶望的な状況下、周りからの歓声と悲鳴、その中に取り残された俺を包み込む光。その光の発光場所が自分の首にかけていた指輪だと理解したのは、昔懐かしい実家の天井を見た瞬間だった。

「うん。指輪のことは、誰にも言えない秘密だからね。」

少し頬を緩ませて言うと、少女は少し考えるように唸ったあと、公園の出口の方向を見て花が咲くように笑った。

「お兄ちゃん!このお兄ちゃんもこの前話してくれた物語知ってたよ!でも指輪の話はやっぱり秘密なんだって!」

少女の視線の先に、困ったように笑う友人の姿があった。

【誰にも言えない秘密】

意味わからなかったらすみません。

6/6/2023, 5:23:18 AM