「……ふぅ、こんなものかな。」
コポコポと音を立てる鍋の火を慎重に調節しながら一息ついた。
調合レシピと睨めっこして約二週間。
ようやく薬の完成にこぎつけたのだった。
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「え?フェリックス・フェリシスじゃなくて?」
「そう、その人の無意識的な願いを一つ叶えてくれるっていう魔法薬があるんだって!」
事の発端は数日前、授業の合間の休み時間に幼馴染が“不思議な魔法薬”の話知ってる?と教えてくれたところから始まった。
「無意識的な願いって、例えば意識せずにあれこれしたいなーってふと思った事が叶うって感じ?」
「ん〜実際に飲んだ事ないから分かんないけど、そんな感じかも?」
「なるほど…叶いますようにって思っててもそれは意識的な願いだから叶わなくて、ふとした願い事は叶えてくれるってことか…。」
まだまだこの魔法界には知らない事が沢山ある。
この世界に足を踏み入れてからは毎日が新しい事の発見で、魔法の知識を学ぶというのはとても楽しい事だった。
話している内に、段々とその薬にも興味が湧いてくる。
ふと隣を見やると、少し期待した眼差しを向けてくる幼馴染の姿が。
あ、何となく言いたいこと分かったかも知れない。
「それで…その薬の調合方法って知ってるの?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!」
そう言うと彼女はフクロウのポーチをゴソゴソと漁り、調合レシピが書かれた一枚の羊皮紙を僕に渡してきた。
「ん?なんかこれ…所々少し焦げてない?」
「いやぁ〜……私もせっかくならと思って薬の調合試して見たんだけどね?」
曰く、何日か煮込まないといけないところで通りかかったニーズルに鍋をひっくり返されてしまったらしい。
意気消沈。幼馴染の手はニーズルに引っかかれた後があった。
「うわぁ……それは大変だったね…。分かった、僕も作ってみるよ。」
「うん、上手く出来たら教えてね!」
そうして願いが1つ叶うという“不思議な魔法薬”作りに取りかかる事となった。
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これは…なかなか良い出来なんじゃないだろうか?
完成した魔法薬をいくつかの小瓶に入れ、光にかざすと銀色にキラキラと反射していた。
ひとまず無事に完成した事を幼馴染に伝えようと手紙を書く。
そして相棒であるメガネフクロウのテムズを呼び、手紙を渡そうとして気づいた。
完成はしたものの…これ、実際に飲んで効力も試してみないと上手く出来てるかどうか分からないな……。
正直、願いが叶うという効力はずっと気になっていた。
小瓶を一つ手に取り、一気に飲み干す。
少し舌がピリピリしたが、香りはほのかに甘く、とりあえず変な味がしなかった事に安堵した。
「ピィーッ!ピィ、キュルル…」
「ん?どうしたの、大丈夫だよ。」
テムズが心配そうに肩に乗ってきたのでよしよしと柔らかいお腹を撫でてやる。
「ふふ、お前の羽はふわふわだなぁ。」
魔法薬を調合する際、火加減の調節がかなり難しく何日かほとんど徹夜で作業していた為、フクロウを撫でていると急に眠気がやってきた。
「…ふぁぁ…ちょっとだけ、休もうかな……。」
欠伸をしていると、もう撫でてくれないのか?とテムズが顔を覗き込んでくる。
羽がもふもふと顔にあたって少しくすぐったい。
……もしも、テムズがもっと大きかったらふわふわもふもふに包まれて最高かもしれないな…。
寝不足の頭でぼんやりとそんな事を考える。
…すると直後、フクロウの乗っていた肩がズシリと重くなった。
急な重さに耐えられずバランスを崩して倒れ込む……が、何故か倒れた衝撃は無く、代わりに柔らかいものに包まれる感覚があった。
「ホーッ、ホーッ!」
「なっ……て、テムズ……?!」
そこには自分より一回りも二回りも大きくなったフクロウが居た。
一体どうして……と考えるよりも早くテムズが
大きな羽で自分を包み込んでくる。
ふわふわもふもふで暖かい。驚きでどこかへ飛んでいた眠気が急速に戻ってくるのを感じた。
あぁ、まさに最高の状況じゃないか。
「ホホーッ」
心なしかテムズも嬉しそうだ。
…まぁいいか、少しだけこのままで……と睡魔に身を委ね、そのままそっと目を閉じた。
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その後一日程度で魔法薬の効力は切れ、フクロウのサイズは元に戻った。
薬がバッチリと効力を示す事が分かった幼馴染と僕は、もう一度なんとかもふもふパラダイス(?)を築こうとしたが、無意識に願った事しか叶わない魔法薬がその願いを叶えてくれる事はもう無かったのだった。
#そっと包み込んで HPMA side.S
5/24/2025, 8:54:35 AM