「窓から見える景色」
早朝。草木と小鳥が目を覚まして小さな囁き声をあげる。
そしてそのあと、藍色に染まった街が赤と白のライトをちかちかさせて動き出す。
朝。ようやっとひとびとが目覚める。
楽しそうに散歩する犬。のんびりうとうとする猫。
食べ物を得ようとゴミ袋を啄くカラスと、それを追い払うひと。
昼。みんな活発に過ごす時間のはずなのに、静けさが漂う。
黙って微笑んだままのパンジー。風に揺られる百日紅。
日の光からひとびとを守る日傘の花。
夕方。あれだけ元気だった太陽は街を赤く染めて、世界で一番大きな影を連れてくる。夕焼け雲を見つめているうちに公園で遊ぶ子どもたちの声が少しずつ遠くなって、夜が来た。
夜。どこからともなくカレーの香りがする風。
少しずつ消えていく窓から透ける明かり。
どこかで聞こえる猫の喧嘩と渡り鳥の鳴き声。
深夜。みんな眠った後の、自分だけの時間。
自分だけの時間と言いながら窓の外を見て、仲間探しをする。
たとえひとりだったとしても、孤独ではないとわかって安心する。
窓から見えるのは、たったそれだけの景色。
だけれど、そこにひとびとの、街の全てが詰まっている。
世界はテセウスの船だから、この景色もきっといつか見られなくなってしまう。街と一緒に、私の心も入れ替わっていく。
窓の外に見えるのは、今しか見られない風景画。
9/26/2024, 9:40:48 AM