白糸馨月

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お題『一輪の花』

 ある時期から僕の祖母のお墓に一輪の花が供えられるようになった。お墓には似つかわしくない青のトルコキキョウだ。
 その辺の花屋で仏花を買ってきた僕は気にせず毎回一緒にお墓の花瓶に入れていた。
 それが今、青のトルコキキョウを携えている人に出くわした。たしか大学で講義でよく一緒になるやつだったか。
 真ん中の席で目立たないように適当に授業を受ける僕と違い、そいつはいつも一番前の席にいて熱心にノートをとっている姿が印象的だった。
「いつも青い花を供えてくれたのは君だったの」
 すると、目の前の男は眉をつりあげた。
「先生は青いトルコキキョウが好きと聞いたから……というか、仏花はないんじゃないの? 君、自分の祖母の好きな花も知らないわけ?」
 思ったよりも感じが悪い。だけど、祖母の好きな花を知っていて供えてくれる彼は悪い人ではない。それだけは分かった。
 祖母はずっと教師をしていた。祖母も忙しいだろうに僕の両親はいつも不在だったからと母親のように面倒を見てくれていた。
 家の外の祖母を知らなかったけど、まさかこんなところで繋がるなんて、しかも祖母は未だに想われているなんて、その事実に胸が熱くなる。
「いつもありがとね」
「先生には世話になったからな。いろいろと」
 そう言うと口をもごもごさせながら彼は僕の目の前を足早に通り過ぎていく。
 僕は祖母のお墓に仏花を供えると線香に火をつけ、両手を合わせた。それから彼に思いを馳せる。
 明日の講義は彼と一緒だ。それが終わったらいろいろ話を聞こう。そう決めた。

2/25/2025, 9:12:03 AM