5/26 お題「月に願いを」
もうすぐ。もうすぐだ。
生贄の壇に跪かされても、僕は月を見上げるのをやめなかった。唇から笑みがこぼれる。村人たちは気が狂ったものと思うだろう。
突如、闇が風を纏い、辺りを薙ぎ払った。恐れおののき、這うように逃げていく村人たち。
僕の前で動きを止めた闇は、月を背後にゆっくりと立ち上がる。逆立った毛が風になびく。金色の瞳が僕を見下ろす。
唸り声にしか聞こえないそれを、僕の耳ははっきりと聞き取った。
「待たせた」
眩しいほどの月光を浴びて、僕はにっこりと笑んだ。
「待ってた」
僕の、新しい旅路のパートナー。
(所要時間:11分)
5/26/2023, 10:47:58 AM