ヒロ

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正直言って、俺が誰かに頼られるなんてそうそうないことだと思っていた。
ましてや、学年トップの王子相手となればなおのこと。

「おわっとストップ! そんな力込めて卵割ろうとすんな!」
「あっごめん」
見るからに力んだ右手を制止して、安堵のため息を吐く。
まさか、あれだけ女子にキャーキャー言われていた王子がこんなに不器用とは知らなかった。
まあ、そもそも。噂で回ってくるこいつの情報に興味がなくて、知ろうともしてこなかったからっていうのもあるけれど。
学年が上がって同じクラスになったものの、クラスメイトとはいえ普段はあまり話もしない。
だから、こうやって家庭科の調理班が一緒になって初めて、王子さまの実際を目の当たりにした訳だが。
危なっかしく調理する奴を前に、普段押し殺していた嫉妬心がめらりと燃え上がる。
――部長、自分はあんなに料理上手いのに。こんな料理へたくそな奴が好きなのかよ!

「ねえ、次は野菜を切れば良いのかな?」
部長の面食い具合を嘆いていれば、すっかり俺を頼りきった恋敵が、これまた危なっかしく包丁を握り込んで指示を待っていた。
「待て。野菜は洗ってからだ。包丁を置け!」
「あ、そっか。そうだね。ありがとう」
従順な王子に調子が狂う。
あーもー! しょうがないな。
料理に関しては俺が上。料理部唯一の男子部員、腕の見せ所だ。
こうなったら王子の面倒見ながら美味いもん作って、部長の目覚まさせてやろうじゃないの。
覚悟しとけよ、二人とも!


(2024/07/13 title:042 優越感、劣等感)

7/14/2024, 10:10:40 AM