「新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。先輩結婚してください」
「ああ、あけおめ。ことよろ。結婚はしない」
「なんでですか!」
こえぇ。思わず心のなかで呟く。
ばっと突っかかってきた会社の後輩を軽くあしらって、元旦のコンビニへ入っていく。
なにやら文句を言いながら当然のように俺の後ろについてコンビニに入ってくる。
「新年の挨拶にしれっとプロポーズ入れてくんな」
「ちぇー、引っ掛かると思ったのに」
「どうしてそれで俺が引っ掛かると思った?」
油断も隙もない。
危うくなにも考えずにオッケーするところだった。
「…それとな。なんで俺のアパートの隣のコンビニで会う?」
「偶然ですよ。偶然、たまたま、偶然。新年早々会えるなんて奇跡同然ですね」
こえぇ。再び心のなかで呟く。
いつからいた、こいつ。まさか年明ける前からとか言わないよな。
…こいつだからその可能性も否定できない。
「あ、先輩って一人暮らしですよね。ってことは新年の挨拶一発目は俺ってことになりますね」
「…こえぇ」
声に出た。
まさかそれを狙って待ち伏せしてたとか…あり得る。
「先輩は今年の抱負とかってありますか?」
「いや、特には。…あ、熱烈ストーカーの後輩から逃げることとか」
「いやだな、先輩。ストーカーじゃありません。先輩の身の安全を考慮して守っているだけです」
会社でも隙あらば「結婚してください」って迫ってくるの本当にやめてほしい。周囲からの目が痛い。
まだ付き合ってもいないのになんでいろいろぶっとばして結婚なんだ。
冗談で笑い飛ばせるレベルじゃないからまじでこわい。
「俺の抱負はですね。先輩と結婚式挙げることですかね」
「やめろ」
ぱしっと腕を掴まれて、おい、と声を上げる。
「…うそ。さっきのは冗談です」
そしてそのまま引き寄せられて、肩がぴくっと跳ねる。
「先輩に俺のこと知ってもらうことですかね、まずは」
意地悪く歪んだ口角に、ぞくりと背筋が冷えた。
俺の一年はこうして幕をあけるのだった。
……おいっ、なんでだよ!
新年 #157
1/1/2025, 1:43:45 PM