霜川菜月

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予感


僕は昔から勘が鋭かった。

雨や地震がなんとなくわかってしまったり、
学校の担任や職場の配属先、
妻との出会いや友人の別れ話など、
いいことも悪いことも、
僕がなんとなく予感したことは
外したことがなかった。

あの瞬間までは──

テーブルに置かれた離婚届を見て、
僕は最初、何が起こっているのかわからなかった。

なんの予感もなかった。

額と手のひらにはじんわり冷たい汗が滲み、
体は鉛のように重く、床に沈み込んでいきそうだった。

この時の僕は、それが現実なのか夢なのかの判別さえつかないほどに狼狽えていた。

これが、これから始まる予想のつかない物語の序章にすぎないとも知らずに──

10/21/2025, 4:29:10 PM