海月 時

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「早く大人になりたいな〜。」
昔は今の現状に満足せずに、大人に憧れた。それなのに、今の俺は過去の俺が見たらどう思うだろうか。

〈〇〇小学校 卒業アルバム〉
そう大きく書かれた、分厚い本が目に入る。実家の倉庫の片付けをしている時だった。休憩がてら、アルバムを開く。
〈俺の将来の夢は、格好良い大人になる事です。〉
俺の将来の夢の欄には、そう書かれていた。抽象的すぎる夢に、顔が綻んだ。俺はなれたかな?

子供の頃は、自分こそが世界の主人公だった。そして、大人になったらもっとすごいことが待っている、そう信じていた。しかし、大人になって知った。昔憧れた大人は、存在しないのだと。大人はすごい、格好良いと目を輝かせていたあの頃にはもう戻れない。大人も社会も、薄汚いものだ。きっとその事を知った日から、俺もまた、薄汚い大人になっていったのだ。過去の俺を叱ってやりたい。抽象的な夢を抱く前に、もっと努力しろと。大人になってから頑張っても、もう遅いのだと。そして、教えてやりたい。お前が夢を見ているその日々が一番楽しいと。

あぁ、もう一度やり直したい。そんな馬鹿げた夢、叶うはずはない。ならばいっそ、これ以上汚くなる前に終わりたい。

足が自然と会社の屋上へと向かう。フェンスを越えると、そこには美しい景色があった。世界も上辺だけは綺麗なんだな。俺は少しの勇気と来世への期待を胸に、前へ歩く。

子供の頃は自分が世界の中心だった。大人になったら世界を回す歯車になった。歯車だとしても、俺が死んだら世界が悲しんでくれると期待してもいいじゃないか。

6/23/2024, 3:05:52 PM