ずっと隣で笑って居てほしい。
テレビから流れてきた流行りの映画のCMが流れヒロインに向け今人気の若手アイドルがそう囁いていた。ぼんやりと画面を見ながら考える。いつか自分にもそんな風に思える相手が出来るのだろうか?テーブルに置いたアイスティーのグラスが汗をかいている。腕時計を確認すれば幼馴染の幸太郎との約束の時間が迫っていた。もう出なくては。
-なんてことのない夏休みの宿題を一緒にという約束。
まだそんなに日は強くない。麦わら帽子を被り着慣れたワンピースに楽なサンダル。幸太郎との約束ならば気取る必要もない。手提げに入れた課題と筆記用具と財布とスマホ。それだけを持ち近くの図書館に向けて歩く。しばらく歩いていれば聞き慣れた声が近づいてくる。待ち合わせをした意味なかったな。などと考えていればすぐ隣に。
「よー。一緒にいこうぜ?持つか?」
「いいよ。そんなに重くないし。」
「えーいいって。こういう時はじゃあお願い。って言っとけよ?その方が可愛いだろ?」
「…あんたに可愛いって思われても私は嬉しくないけど?」
どこか間伸びした低めの声が心地よい。他のクラスメイトとはこんな雑な会話をしないのに、こいつとだけは何故か自然と居られる。
「…あっ」
「え?」
曲がり角、会話に夢中だったために一瞬気づくのが遅れた。目の前にトラックがあった。ダメだ!と目を瞑った瞬間後ろにぐっと引かれる。
「おー、あぶねー!!お前ちゃんと前みろよ?」
あれ?こいつこんな大きかったっけ?…力も強く…え?
「嘘…。え、そんな…」
「あ?お、おい?どっか痛かったか?」
「これかぁ…。幸太郎だったの……」
つい残念な声が漏れる。…どうか吊橋効果であってほしいけれど、未だ捕まれたその手に高鳴る鼓動が鳴り止まない。…夏休みはまだ始まったばかりなのに。
3/13/2023, 12:54:09 PM