たぬたぬちゃがま

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蝉の鳴き声がする。
けたたましく鳴るアラームのようで、鬱陶しい。
じっとりと熱い空気に包まれて息苦しい。呼吸をしようとして、口を開けた瞬間に熱が身体に入り込んでくる。
汗が額から流れていくが、拭えない。
手も足も動けない。
延々と続くと思ったら、冷たい感触が頬に触れた。
手だ。と、同時に口に何か流れてくる。口からこぼれるのも気にせず懸命に飲むと、頬に触れた手が慈しむように撫でてきた。
それまでの不快感や息苦しさが和らいでいく。
蝉の声は相変わらずやかましい。でも、この手の心地よさには変えられない気がした。


目を開けると、白い天井が広がっていた。
「気、気づいた!!よかったー!!!」
泣きそうな顔で彼女が抱きついてくる。蝉の鳴き声がまだ頭に響く。
「なんでこんな暑い日に外で昼寝するんですか!!身体も真っ赤で熱くて……ゆすっても起きなくて……ほんっとうに焦ったんですからね!!」
ぼろぼろと目から溢れるのが綺麗、と言ったらまた怒られそうだと思った。
ぼんやりとした頭で自分の首から下に目線をやると、点滴に入院着を着ていた。そこでやっと自分は病院にいるのだと気づいた。
「……なんか言ったらどうなんですか!!」
「……ごめん。」
言い訳しようにも身体がだるくて口を最低限しか動かせない。状況を整理すると、朝の涼しい時間帯に木陰で眠ってしまい、気づいたら真昼の太陽に照らされ脱水や高体温で死にかけていたらしい。彼女がいなかったら死んでたよ。そう言う医者に対して1番焦った反応をしていたのは彼女だった。

「ばか!ばか!!ばかー!!!」
「……ごめん。」
彼女の目から溢れる涙を親指で拭う。それでもボロボロと止まらないそれは、指を濡らしていった。
濡れた手で彼女の手をそっと掴んで自身の頬に触れさせる。泣きながらきょとんとした彼女を尻目に、頬への感触が夢と同じことを確かめていた。


【真昼の夢】

7/17/2025, 7:19:50 AM