いつからだろう。
世界がモノクロに見えるようになったのは。
「えぇ〜、忘れちゃったなぁ。気づいたら、あれ世界ってこんなに味気ないものだっけ〜って感じでさ」
あはは〜、と笑ってみせる。
隣の彼をちらりと盗み見るもその重い前髪の下は分からない。
「だから虹もちょっと分かんないんだ。せっかく教えてくれたのに、ごめんね」
今さっきのことだった。
俺にとっての世界は白と黒で構成されているのだと知られたのは。
虹が出たって知らせてくれた彼に普通を装って歓声を上げてみるもやっぱり胸の痛みは無視できなくて、普通を振る舞うことを貫き通せなかった。
きみなら信じてくれるんだろう。根拠のない自信。
だんだんと空気が重くなっていって焦る。どうしよう、やっぱりこんな空気になっちゃった。早く次の話題に____、
癖でこの話題をさっさと流そうとした、そんなとき。
「一番上はちょっと怒った奈緒が笑いかけてくるような淡くて儚い赤色。その下は奈緒が喜んでて愛おしいようなそんなはっきりしてて儚い黄色。で、一番下が淋しい苦しいって感情をそのまま飲み込んじゃうときの奈緒みたいな触れさせてくれないけど確かな青色」
雨上がりだからか、空気が澄んでいた。
最初はどういう例えだ、とか半ば呆れていたのだけれど、ぶわっと風に煽られた一瞬。ほんとに一瞬だけ。
世界に色が落とされた。
吸い込まれるように口を開く。
「三色なの?虹って七色じゃない?」
「…ああ、それ国によって違うらしいよ。だから見え方なんて色々あって、どれが正しいとかないんだって。俺の場合は三色にしか見えなかっただけ」
何気なく放ったであろうその言葉に、なぜか急に視界がクリアになる気がした。
「ふ、あははっ。何その例え、ちょっと怖いんですけど」
「え、分かりやすいかなって」
「ふふっ、えー、それでそんな例えになるー?ふ、あははっ」
憂鬱だったはずの灰色の虹がかかる帰り道は、どうしてかさっきよりも足取りが軽かった。
七色 #200
3/26/2025, 2:35:20 PM