すゞめ

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『心の片隅で』

 同棲中の彼女と夕食をすませたあとのことである。
 彼女が大層ご立腹の様子で、紙袋をローテーブルの上に投げ置いた。

「これは一体、どういうつもり?」

 おっと?

 心の片隅で燻っていた欲望が具現化した、フリフリで真っ白なハート型のエプロンが見つかってしまった。

 クローゼットの奥底に隠していたはずなのに、よく見つけたなと感心する。

「メイド服の次は裸エプロンでもさせる気かよ?」
「おや。話が早くて助かります」
「最低」
「それはそれとして、よくわかりましたね?」

 彼女の性的嗜好の知識や認識は乏しい。
 子どもっぽいデザインのエプロンとして認識してくれると思っていたが、コスプレ目的で用意したことを暴かれるとは意外だった。
 彼女のドスケベレベルが一段階上がって、俺は感無量である。

「だって本当にれーじくんが私のためって選ぶなら、絶対、割烹着になるじゃん」
「ふふっ。俺のことをよくご存知で♡」

 料理嫌いの彼女が料理上手だという事実を知って以降、タイミングを見計らいながら手料理を作ってもらっていた。
 俺には、俺のエプロンをして調理を進める彼女にムラついてしゃぶりついた前科がある。
 以降、彼女がエプロンをつけることはなくなった。

 この時期はともかく、夏場は下着姿のまま火を使うから気が気ではない。
 頻繁ではないにせよ、彼女の肌や服に油が直撃したらと思うと、俺が耐えられなかった。

「なので、ウサ耳ポケットのついた割烹着も用意してありますよ」
「はあっ!?」

 ハート型のエプロンと一緒にしていたのだが、そっちは見つけられなかったのだろうか。
 嗅覚が鈍いのか鋭いのか、イマイチ測れなかった。

「え、本格的に私にご飯を作らせようとしてる……?」

 割烹着の存在を匂わせた途端、彼女の様子がおかしくなる。

「いや、れーじくんだって忙しいことはわかってるけど、レトルトとかインスタントとか冷食でも許してくれるかな? あれ!? 待って、待って!? 割烹着ってことはもしかして掃除や洗濯とかもまかされちゃう感じ? え、無理無理、ハウスキーパー契約させてほしいっ。でも、れーじくん、家の中に人を入れるの嫌ってるし……。ねえっ、お金は私が出すからせめて月イチでなんとか手を打ってほしいっ!」

 涙目になって彼女が訴えてくるが、冗談ではない。

「いきなりなんの話をおっ始めやがるんですか。落ち着いてください」

 水回りの掃除なんてさせられるはずないだろう。
 とぅるとぅるすべすべのお肌が荒れたらどうしてくれるんだ。
 彼女用のニトリルグローブなんか絶対に買わないからな?

「あなたの髪の毛を集める楽しみを俺から奪わないでください」
「ホンットに、家事をやる気にさせる天才だよな?」
「なんでですか。ダメです」
「だったら発言に気をつけろ、気持ち悪い」
「傷つくので気持ち悪いはやめてください。怖くないですから」
「いや、怖いわ」
「全く……」

 怖い、もNGワードだって言ってるのに、全く改めてくれる気配がない。
 深追いしても話が進まないため、俺は諦めてため息をついた。

「勝手に暴いておいて、変な暴走しないでください」
「黙って用意しておいてよく言うよ」
「備えあればって言うじゃないですか」
「なにを備えてるんだよ、おたんちん」

 ベシッと容赦なく胸元を小突かれる。

「ったく、こんなもんどこで見つけてくるんだか……」

 あきれ果てた様子でフリフリのハート型エプロンを見つめた。
 エプロンを広げて、デザインや大きさを確認している。

「あ、ねえっ」

 しばらくして、彼女はキラキラと目を輝かせて顔を綻ばせた。

「!?」

 もしかして、ワンチャンある?

 ……なんて、期待をした俺がバカだった。

「れーじくんが裸エプロンするのはどうかなっ?」
「なんでですか!?」
「昔、文化祭でやってたメイドさん似合ってたし、エプロンもかわいいんじゃない?」

 ちょっとソワソワするのやめろ!?
 かわいくおねだりしてもやらないからなっ!?

 彼女のサイズで用意したから、多分、全部はみ出るだろうし。
 それで夜が盛り上がるならともかく、ドン引きされるのが関の山だ。

「しません」
「ちぇ」

 フリフリのハート型エプロン事変は、彼女にエプロンを没収されるかたちで幕引きとなった。
 しかし、数日後。
 彼女からフリルのエプロンが手渡され、俺は発狂するハメになるのだった。

12/19/2025, 12:20:29 AM