一夜の夢

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木枯らしがコートの裾をはためかせる。
僕は襟元をかき合わせた。
冷え込む冬の朝は、いつもより静かだ。

今日はずいぶん早くに目が覚めてしまった。
まだ慣れないこの街を昼中に歩くのは気が進まない。
しかし、早朝ならば人も少ないだろうと実に3ヶ月振りの散歩に繰り出したのだ。
あなたを起こさぬようにそっとドアを閉め、市場のある方角へ。
帰りがけに焼きたてのパンでも買って帰ろうか。

寝静まる市場をぐるりと回り、活気溢れる日中の様子を想像する。想像は得意だ。

パン屋に辿り着く。
ちょうど開いたばかりのようだ。
あなたは何のパンが好きかな。
特に好みを持たない僕の選択は、必然的にあなたの好みになる。

記念すべき住民とのファーストコンタクトをパン屋の主人と済ませ、僕はほかほかの紙袋を手に家路を急ぐ。
普通に、つまり怪しくない感じで、僕は振る舞えていただろうかと不安になった。
あまり特別な印象を残したくはない。

やっと家に続く小道に帰りつき、僕は少し安心した。
ドアを開け、ただいま、と呟いて、その言葉の懐かしさに驚く。
リビングに足を踏み入れれば、コーヒーの香りが僕を包み込んだ。

「おかえり。散歩はどうだったかな」

キッチンで微笑むあなたに笑顔を返して、紙袋を渡した。
結局店主におすすめを詰め合わせてもらった中身は、あなたのお眼鏡にかなうだろうか。

「バゲットとクロワッサンか。いいチョイスだ」

どうやら当たりを引き当てたみたいだ。
あなたの上機嫌を背中で聞きながら、冷えたコートを壁に掛ける。
僕の世界は再び広がる予感を見せていた。

1/17/2024, 5:13:39 PM