お題『ひらり』
街で決闘がされる。しかも公開試合だ。
他の野次馬と同じく、僕もその試合を観戦することにした。
屈強なトロールのような見た目をした冒険者の相手は、やせっぽっちの優男だ。冒険者は頑丈な鎧に大きな斧を持っているのに対し、優男は軽装に小型のナイフだ。鎧なんて身につけていない。
あぁ、勝ち目がないなと僕は思う。内心は優男に勝ってほしい。冒険者の方はうちの店に来て毎回無銭飲食してくるからだ。それを注意したことが一度あって、その時は仲間たちによってタコ殴りにされた。しばらく包丁が握れないくらいに。
さて、試合開始の合図が見届人によって声高らかに宣言される。
冒険者の方が先に出た。勢いよく斧を振り回す。あーあ、やっぱ強いかぁ。
そんな時だった。
優男がその場でジャンプして、ひらりと前方宙返りをした。それだけじゃない。もうすぐにナイフを構えていて気がついた時にはその冒険者の首、それも鎧で覆われていないところをめがけて攻撃した。
一撃だった。冒険者がその場で膝をつき、前に倒れたのだ。あっけなかった。
首から血が流れていないとはいえ、まるで死んでるみたいに倒れている。
審判が困惑気味に優男に話しかける。優男は言った。
「死んでない。すぐに目を覚ますだろう」
事実、冒険者は指先をぴくつかせている。周りがどよめきに包まれる中、優男は人ごみをぬっていつの間にかいなくなってしまった。
今のを見て、僕はなぜだか希望に似た感情が胸にこみあげてくるのを感じた。
3/3/2025, 11:44:32 PM