NISHIMOTO

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やわらかい机。やわらかい椅子の足についたまるいボール。
「これなぁに」
「たぶん、こう、音が鳴らないようにするやつだよ」
セラちゃんが立ち上がって椅子をひきずった。悲鳴をあげるようなこともなく布がこすれる音がする。
「す、すごい!先生がやったの?かしこーい!」
「たぶん、たぶんね。たぶんだよ?」
「すごいねぇ!」
「たぶんだからね」
間違えるのが怖くて『たぶんねロボット』になっている。
わかったよ、もう。それよりも。
「あのさ、じゃあさ!ユリのツノにもこれしたらいいよね!」
自分のツノは珍しい形をしている。背中の真ん中の骨からびーんと伸びていて、寝返りもできないからハンモックで寝ているのだ。降りる時は先生に抱きかかえてもらわなきゃ降りられない。怖くて。
今だって背中が空いた服しか着られないから外で遊べなくて退屈。おまけに寒がりで冬は教室から出たくなかった。
「そしたら先っちょ尖ってても引っかけたりしないよ。やすりがけは、じいんとするから嫌いだし!」
「うん、いいね」
セラちゃんはロボットからツノノコに戻って笑う。それから、もそ、もそ、と自分の頭をかきわけてツノを見せてくれた。
「セラのこれもね、ユリちゃんのと違うけどね、ツンツンしてて嫌だから同じのしよ」
ずい、と押し出してきたのを押し戻す。
セラちゃんのツノは頭から生えてるけど面白い形なのだ。2組のオオガキくんは鬼のツノみたいに立派なので、いつもズルいって口を曲げている。
先生たちはツノを大事にしなさいって言うけど、ツノノコのツノは牛や羊のツノより早く成長するし、お手入れも必要で面倒なのだ。なければいいのに!ってみんな言う。
「職員室行こー!」
一緒によーいどんしたのに置いて行かれた。
普段はのんびりさんのくせに足はすごく速い。ユリからすればそれもなんだか可愛いしかっこよくてズルいと思うんだけど。
こういうの隣の芝生は青いって言うらしい。つまり、友達のツノは羨ましいってこと。
先に着いたセラちゃんが説明していたみたいで、遅れて部屋に入ると先生が真っ先に答えてくれた。
「先生はちょっと、反対だなぁ」
「えー!なんで!」
先生が言うには。成長の過程とやらがわかりにくいらしい。
ツノは先が一番新しいので、それを隠すのは反対って言っていた。
「それに、よく考えてみて」
難しい顔をして見せてから一度奥に戻って、腕に板を抱えて戻ってくる。姿見という大きい鏡だった。
セラちゃんの肩を押して姿見に写し、白衣の大きなポケットからボールを二つ取り出す。
先生のポケットってなんでもあるんだなぁ。
「ほら、どう思う?」
セラちゃんの頭に二つ、ボールをあてる。
すぐにセラちゃんが返事をした。
「だっさい!」
そんな!
「そんなことない!ないよ!野球のボールがダサいんじゃん!ちっちゃいボールで、たとえば、クマ!クマの耳みたいに塗ったら可愛いよ!」
先生の手からボールをむしり取った。こんなボール、ユリだって嫌だよ。
でも一緒に盛り上がった友人にもう熱はないみたいで、振り返って怒ったようにイーッ!と綺麗な歯並びを披露する。
「クマ好きじゃない!」
そんなぁ。

3/25/2023, 2:27:45 PM