小鳥

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路上ライブを始めて、もう何年経ったかな。

子供の頃から歌うことが大好きで、
それがいつしか私の歌でみんなを
元気にしたいと思うようになり、
作詞も作曲も全部自分で作るようになった。
時間はずいぶんかかったが、
私の歌を聴いてくれる人も沢山できた。

今日みたいに寒いはあの日のことを思い出す。
私にとって宝物みたいな思い出だ。

──確かあの日も一段と寒い日だった。
まだ私が路上ライブをやり始めた頃。
毎日毎日精一杯歌っていたけど
誰一人聴いてくれなくて、
私の前を沢山の人が通りすぎていった。
寒さで指先も真っ赤になり
体もすっかり冷えきっていて。
もうやめてしまおうか、そう思ったとき
淡く綺麗な着物を着たおばあさんが
パチパチと拍手をしてくれた。
そして私にこう言ったのだ。

「この道を通る度に、素敵な曲だと思っていたの。
毎日元気を貰っていたわ。本当にありがとう。」

ペコリと礼儀正しくお礼を言った後、
「寒いでしょ、良かったらこれで暖まってね。」
と、温かいココアを貰った。
寒さが身に染みていたからこそ、
掛けて貰ったその言葉が心の底から嬉しくて
涙が溢れて止まらなかった。

「こちらこそありがとうございます」
声を振り絞り、精一杯の感謝を込めて
深くお辞儀をした。


うん、もう少し頑張ろう。

聴いてくれてる人がちゃんといる。
応援してくれる人がちゃんといる。

よし、貰ったココアのおかげで指先もじんわりと
暖まってきた。私はまだまだ頑張れそうだ。


──今だから思う。

寒さが身に染みるこの季節だからこそ、
人の暖かさや温もりが強く感じられる。
それはとても愛おしく、そして何かを
一生懸命頑張ってる人の糧にもなるのだ。


今日も私は歌う。
聴いてくれる人へ感謝を込めて。
そして今を頑張ってる人の心に少しでも、
私の歌が届きますようにと願いながら。


#8 『寒さが身に染みて』

1/11/2024, 12:07:12 PM