くまる

Open App

台所で皿洗いをしているキタは、足元に居るファキュラに話しかける。

「ファキュラは何かお願いごとはある?」
「おねがいごと?」
「そう。明日は、年に1回、お星様がお願いごとを叶えてくれるんだよ。」
「そうなんですね!えっとぉ、えっとぉ。」

ファキュラは悩み始める。おやつが、もっとたくさん食べれますように?苦手なお野菜が食べれるようになりますように?

「キタくんは?何をおねがいするんですか?」
「僕?僕はねぇ、『立派な星読みになれますように』。」
「りっぱな、ほしよみ?」
「そう。夜空の星を見て、人の役に立つ情報を集める仕事だよ。僕の目標。」
「すごいです!」
「ふふふ。」

洗い終わった皿をカゴに立てていく。今日は、ガク師匠の家に、収穫の手伝いに来ている。偶然、仕事が忙しいニシさんによって預けられた、使い魔のファキュラが居て、こうして相手をしている所だ。

「ファキュラはねぇ、おおきくなりたいです!」
「大きくなるの?」
「そうしたら、ニシさんの、おてつだいができます!」
「そうか。偉いね。」
「えへへ。」

ファキュラは使い魔だ。しかも、愛玩用だと聞いている。元の主人は亡くなっていて、ニシさんは引き取っただけだと言うし、身体を大きくするのは難しいかもしれない。何より、二足歩行とは言え、手足は猫のように、指が短くて肉球が付いてるし。物が上手く持てないかも。

「ファキュラの、いちばんのおねがいは、ね。」
「うん?」
「ニシさんと、ずっといっしょに、いることです!」
「そっか。じゃあ、ニシさんの事、大好きで居てあげてね。」
「うん!」

皿を洗い終わったキタは、タオルで手を拭くと、ファキュラの手を取る。

「じゃあ、向こうで、お願いごと書こうか。」
「おねがいごと、かくんですか?」
「そう。神様が見えやすいように、高い木の上に結ぶんだよ。あとで、ミナミさんに結んでもらおう。」
「はい!ファキュラ、じぶんで、かけますよ!」

細長く切った紙に、キタとファキュラは願い事を書く。一番のお願いか。もしも、願いがひとつしか叶わないなら、自分は何を願うんだろう。キタは自問自答する。

「キタくん。あのね。」
「どうしたの?」
「もっとお願いごとしていい?」
「きっと大丈夫だよ。新しい紙に書く?」
「うん!」

別に、神様への願い事は、ひとつじゃ無くても、きっと大丈夫。キタも新しい紙を手に取る。

「おいしい、やさいが、ふえます、ように。」
「ふふふ。」
「キタくんは?なんて書いたの?」
「内緒。」
「ないしょ?」
「そう。お願いごとは、秘密だよ。」
「ふふふ。ひみつです。ファキュラのも、ないしょですよ!」
「そうなの?」
「おいしくないのも、がまんして、たべます!」
「えらいね。」
「ニシさんに、おしえてもらいました。」

それから、二人は、たくさんの願い事を書いた。すぐに叶いそうな願い事から、人生の目標まで。二人が書いた紙を見て、ミナミさんがため息をつくくらい、たくさん。

「ちょっと、キタも手伝ってよ。いっぺんに持てないわ。」
「僕、ちょっと高いところが……。」
「大丈夫。『高いところも大丈夫になりますように』。これで完璧よ。後ろに乗って?」
「なんで、ミナミさんが僕のお願い書くんですか!」
「いいから、乗ってよ。片手は箒に掴まってていいから。」
「両手で掴まりたい。」

紙を半分持たされて、仕方なく、ミナミさんの箒にまたがる。

「ミナミさん、キタくん。おねがい、かなうといいね!」
「一番高い所に、結んで来るわ。待っててね。」
「はい!」
「うわっ!」

ミナミはキタを乗せて、高く飛び上がり、庭で一番高い木に、お願いごとを括り付ける。

「ミナミさん!まだですか!」
「あんた達が沢山書くからでしょ。もうちょっと我慢。ほら、貸して。」
「うぅ。」

キタは、ぎゅっと目を閉じたまま、しばらく箒に掴まっていた。

3/11/2025, 7:26:23 AM