とげねこ

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はるか地平の向こうで砂埃が上がっている。
右から左に一直線で、かなり早い。
あれは恐らく多足蟲だろう。緊張しながら目を細めながら視線を追わせる。
と、砂埃は小さくなり、やがて消えた。こちらとは逆の方角に向かったのだろうか。
ともかくこちらにくる様子はないことに金土(かなと)アキラは安堵した。
−特に蝗や蟻に系譜を持つ蟲は、視界にはいったら直ぐに逃げなさいませ。捕獲されたら、死ぬより辛いですから−
伊-ハ三六がかつてアキラに言った言葉だ。
一度だけハグれに小蜘に遭遇したことがあるが、あれは獣族や器械族(または妹のヒスイ)ならともかく、アキラのような生身の人間に太刀打ちできるものではない。
この世界の食物連鎖に最上位は、間違いなく奴ら蟲族と言える。
「あれは、百足、かな。こっち来なくて良かったねえ」
ヒスイが手のひらを額に当ててアキラと同じ方向を見ながら言った。
「遮るものがないとはいえ、相変わらず凄まじい視力だな」
半分呆れながら「たぶん4-5キロはあるぞ?」
「あたし、視力10.0だからね!」
ヒスイは笑いながらアキラを横目でみた。
「まあ、伊ハと離れてから、お前がいるのは心強いよ」
彼女の言葉は誇張ではなく、寧ろ謙遜しているくらいだろう。もっと詳細にみえているはずだ。
「そうでしょう、そうでしょうとも。」
もっと頼りなさいと胸を張るヒスイ。
「生意気な。必要な時だけ頼むよ。あの双子を見習って、一方に寄りかからないようにしたいもんだよ」
「…そうだね。今日こそ街につきたいな」
ヒスイはひとつ伸びをして、南を指差す。
「じゃあ気合い入れなきゃな」
「走る?」
無理無理と手をヒラヒラさせて、アキラは南へ歩き出した。

1/15/2024, 3:19:12 PM