結城斗永

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いつもの喫茶店。いつもの席。
今日も午後三時が近づいている。

私はベルベットのソファ席でいつものようにアイスコーヒーを飲みながら、右腕にはめた腕時計を見る。
もうそろそろ聞こえてくる頃だ。

カツ……カツ……カツ……

一定のリズムを刻んで床を踏み鳴らしながら近づいてくる革靴の音。
姿は見えない。聞こえるのは足音だけ。
今日も私の席の真横で止まり、キュッと床をこする音がして、机の下で短く足をそろえるようにコツンと鳴る。

おそらく私の向かいに座っているはずの彼は、いったいどんな顔をしているんだろう。
どんな格好で、どんな仕草をしているんだろう。
好きな本でも読んでるのかな。それとも、ただただ外を眺めて佇んでいるのかな。

今日も私は誰もいない正面を見つめながら、何もない虚空にただひとり見とれている。

#足音

8/18/2025, 10:28:16 AM