「俺と付き合ってくださいっ!」
君に告白された時、私はまだ君のことが好きじゃなかった。
「…喜んで」
それでも周りの友達がしている恋というものを知りたくて、私は君の告白を笑顔で受け取った。
「明日帰り道デートしない?」
「君が好きそうだと思って買ったんだ。受け取ってもらえるかな?」
「教えてもらった漫画面白かったよ!続き楽しみだね!」
「ねぇ…キス、してもいい?」
君と恋人になってから日常の小さな出来事が宝石みたいにキラキラと輝いていった。触れるだけの口づけをした後の君のはにかんだ顔が愛おしくて、あぁこれが恋なんだなって気がついた。
「最近なんだか楽しそうだね?」
恋を自覚してからは毎日が幸せでいっぱいだった。好きになった人がすでに恋人だなんて奇跡だと思った。友達に指摘されるくらい私は浮かれていた。
「ごめん…他に好きな人ができたんだ。別れてくれないかな…?」
けれども恋愛の神様は私が好きでもないのに告白を受けたことが許せなかったみたい。君の心はいつの間にか私から離れていった。
「うん、分かったよ。今までありがとう」
最後まで君に嫌われたくなくて、作り物の笑顔を被って頷いた。ホッとしたように笑う君にズキズキと胸が痛む。
「ばいばい」
これ以上君の言葉を聞きたくなくて、私から別れを告げてその場を立ち去る。行き先も決めずに歩き続けて、君の姿が完全に見えなくなったころ堪えきれない涙が両目から流れ落ちた。
「うわぁぁん…っ!!」
君が大好きな気持ちが嗚咽と共に口から吐き出される。泣いて泣いて泣き尽くして、声が枯れるまで叫んだ。
初恋はやっぱり実らないんだね。
輝いていた世界が一瞬でモノクロに染まった。
5/8/2023, 9:53:46 AM