普段より早い、6時前に起こされて
寝ぼけたままで服を着替える
バシャバシャと周りを濡らしながら顔を洗って
ボサボサの髪に櫛を通して1本に結ぶ
玄関に吊るしてある出席カードを首にぶら下げて
急いで靴を履いて手には小さな如雨露を持つ
カラカラと音の鳴る玄関の引き戸を勢いよく開け
大きな声で叫んで家を出る
2軒隣の玄関先でいつもの名前を呼ぶと
待ってましたと友達が顔を出す
並んで川沿いの道路を
宿題の進み具合を確認し合いながら進む
目的地までは歩いて10分
途中、もう1人の友達も合流し
まだ涼しい、澄んだ空気の中を姦しく歩く
黄色の大輪の花が周囲をぐるっと囲んだ公園
集まった子供達は思い思いの遊具で遊んでいる
数人の大人が公園の中央でラジオを準備し
子供たちに集まるよう声をかける
聞きなれた曲がラジオから流れ
小さい子達は真剣に
大きい子達はダラダラと
アナウンサーの掛け声に合わせて体を動かす
朝で涼しいとは言え、体を動かせば
じんわりと汗が浮いてくる
出席カードに判子を貰い
持ってきた如雨露に水を入れ
植えられている向日葵に水をあげ
朝イチのイベントは終了となる
帰り道、友達とプールに行くかどうか確認をして
頭の中で今日のスケジュールを組み立てていく
家に帰って、朝食を食べ
後片付けをしたら、宿題に手をつける
午前中の涼しい時間にやってしまうのが
1番効率が良いことを、今までの夏で学んでいた
まずは得意な算数のドリル
決めたページ数以上を進めて大満足
次は漢字の書き取り
集中力が切れて、予定の半分程で終了
できなかった分は夕方にやろう、なんて考えているけど
結局、プールで遊んで体力切れて
昼寝ならぬ夕寝をしてしまい
後日後悔する羽目になる
休みの終わりが見えてくるあたりで
友達と集まって宿題の写しっこをしたり
読書感想文に悩まされたり
充実した時間を過ごしていたのだと
今なら胸を張って言える
「懐かしいな…」
手にはコーヒーの入ったカップ
向かう先は大き目のモニターが2枚並んだ机
背もたれの高い
所謂、ゲーミングチェアに腰を下ろし
友人が送ってきた画像を見る
男の子の満面の笑みと首からぶら下げたカード……?
「ん?スマホ?」
よく見ればそれはカードではなく、スマートフォンで
その画面にはスタンプの押された日付の枠が並んでいる
「出席カードも電子化の時代かぁ」
何だか寂しさを覚えるのは
古い人間だからだろうか
少子化の波は避けられず
地区で行っていたラジオ体操は
もう、随分と前に廃止となったらしい
送られてきた画像のカードは
ラジオ体操ではなく
お手伝いスタンプだそうだ
因みに、学校のプール開放も
監視を行う親が確保できないこと
利用する子供が少ないこと
日中の日差しが強すぎることなど
諸々の理由で廃止になっているのだとか
仕方の無いことなのだろう
時代が変われば色々なものが変わる
かつて筆と墨で書かれた物語は
万年筆や鉛筆でかかれるようになり
ワープロからパソコンへと変化し
タブレットやスマホでも紡がれるようになった
「時代の流れ…かぁ…」
30年前、私が子供の頃の夏は
エアコンなど無くても過ごせた
扇風機と団扇で乗り切れる暑さだった
今では東北の海辺のあの街でも
エアコン無しでは夏を乗り切るのは厳しい
今から30年後の夏には
何が消えて、何が生まれているだろう
願わくば、あの公園には
向日葵の花が咲いていますように……
6/28/2024, 4:06:47 PM