烏羽美空朗

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伸ばしっぱなしの不揃いな黒髪、その隙間から睨みつけてくる虚ろな瞳。男版貞子が白くぼやけた鏡の中にいた。

あぁ、これは、俺か。

髪を掻き上げ、後ろで適当に結ぶと、見慣れた自分が額縁の中に帰ってくる。
何もかもを悟ったかのように凛々しい切れ目に対し、何もかもを恐れているかのように弱々しく下がる太めの眉毛。
鼻は小さくて、唇は薄いが薄すぎない。そして、それらのパーツ総てが何の感情も抱いていないかのように凝り固まっている。

その顔は、綺麗だと言われれば綺麗で、普通だと言われれば普通で、怖いと言われれば怖い。そんな、なんとも言い表し難い顔立ちではあるが、ものすごく美人ではなく、ものすごく不細工でもない、ある意味丁度良いバランスだとは思う。

鏡に映る自分は本当の顔よりも美しく見え、写真の中の自分は本当の顔で映るという話をどこかで聞いたが、俺にはどちらも人形のように無表情な自分が閉じ込められているようにしか見えない。

昔、鏡の中の自分と入れ替わるという都市伝説のような噂が流れていたことをぼんやりと思い出した。
俺が二人もいてたまるか。鏡の中の自分は不満げに眉をひそめる。

まるで、自分こそが本当の俺だと言いたげに、そいつはずっと睨みつけてきた。

静観に飽きた俺が洗面所から離れるまで、ずっと不安げに睨みつけていた。

鏡の中の自分

11/3/2022, 1:10:22 PM