作家志望の高校生

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ここはとある駅。現世からはぐれた、あるいは失われたモノだけが訪れることのできる世界、らしい。
そんな世界に迷い込んで早1週間。日の出入りで日付をカウントしてはいるが、ここで出会った、骸骨の仮面を着けた妙な男曰く、現世ではまだ1時間も経っていないらしい。
「……そろそろやることなくなってきた〜……」
初めは怖かったし、少し慣れたら面白かった。かつてあったモノ達を見て触れることができるのは普通に興味深い。滅んだ国や島しか無い世界地図、販売終了した商品しか並んでいない売店。どれもが刺激的に感じられた。けれど、1週間もすれば狭いこの駅の中は粗方見尽くしてしまった。時折ここに訪れる電車に乗ればより多くのモノに出会えるらしいが、迷い込んだだけの俺は切符が買えなくて乗れなかった。俺はまだ、一応現世に存在しているかららしい。
「そんなこと言われてもなぁ……早く戻りなよとしか……」
ここに来て出会った男。俺は暇つぶしに彼にひたすらうざ絡みをしていた。ここにいるということは現世で死んだのかとか、あの電車に乗るにはどうすればいいとか、色々絡みまくっていた。彼はその全てに曖昧な笑みを浮かべて誤魔化し、結局彼のことは何一つとして、仮面の下さえ分からなかった。相当ウザかったと思うが、相手は絆されてくれたのだ。初対面では優しげだがどこか警戒したような態度だったのが、今では柔和で少し軽薄な本性を惜しみもなく晒している。謎の達成感を得ながら、手持ち無沙汰を誤魔化すために乗れもしない電車の時刻表を眺めていた。
「……なにこれ、星図?」
ふと、その時刻表の横に貼られたポスターに目がいく。そんなに珍しいわけでもない。小学生向けの学習サービスの付録なんかになっていそうな、カラープリントの星図だった。
「あー……それ?それは……ほら、現世でもう爆発して死んだ星だけ載ってるの。」
「ふーん……」
どうせ暇なのだ。思い立ったが吉日とばかりに、俺は立ち上がって目の前の彼に手を伸ばす。
「今夜星見ようぜ!」
彼はぽかんとしていたが、数秒後呆れたように笑って頷いた。
深夜(だと思う)になって、俺達は少しでも暗い所を、と終電の過ぎた線路に下りて少し歩いた。街灯の光も届きにくくなったところで上を見上げると、たくさんの星々が瞬いている。
「……死んだ星ってこんなにあるんだぁ……」
死んだ星空を見上げる俺の目を、なぜか彼がじっと見つめていた。
「……ねぇ、もっと広い空、見たくない?」
突然彼が言った。彼が言うには、時刻表の横に貼ってあった星図は一部に過ぎないらしい。この駅の先に行けば、もっとたくさんの星が見られると。
「そりゃ見たいけど……俺まず電車乗れねぇし。」
「教えてあげるよ。」
そう言った彼の羽織った黒のローブがふわりと揺れる。彼の手には、鈍く光る大鎌が握られていた。
俺が駅で彼の手を取った瞬間。どこかで、無機質な機械音が長く、長く響いた気がした。

テーマ:消えた星図

10/17/2025, 6:30:02 AM