水谷なっぱ

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フィン・アダムスの僕の最愛の女性はある日忽然と消えてしまった。
女性の両親は二人が営む食堂で殺害されていたが、一人娘である彼女だけは遺体が見つからなかったのである。
それから彼は毎日毎日荒らされた食堂を片付けた。涙にくれる目と、行き場のない怒りや悲しみを噛み締めながら、毎日毎日。
半年ほど続けたところで、彼の前に一人の少女が現れた。少女は女性とその両親であるケリー一家の親戚なのだと言い、アリス・ケリーと名乗った。
フィンは、それはたぶん嘘なのだろうと思う。だって少女はあまりに女性に似すぎていた。なのに目が違った。話し方も振る舞いもなにもかも違った。
だからだろうか。女性とまったく同じ顔と体なのに、少女を見ていてもフィンはあまり辛くなかった。けど、名前だけは呼べなかった。
少女は食堂の復興を望んだ。フィンは一も二もなくそれに乗った。
少女と少女が拾った(文字通り少女は孤児を拾った)子供と三人でフィンは食堂の復興に邁進した。それが最愛の彼女の望みのように思えたからだ。
三人の努力の甲斐があり、食堂はそれなりに繁盛する。
けれどフィンは未だにアリスを名前で呼べずにいた。
だって、読んだら彼女は本当にアリスになってしまう。
しかしそれをフィンは意識していなかった。
新たな出会いはあれど、 彼はまだ彼女だけを愛していたし、彼女のいない明日を生きることが出来ずにいる。

5/22/2023, 12:05:29 PM