中宮雷火

Open App

【放課後まで】

放課後の教室が好きだ。
HRが終わって、掃除が終わって、
どんどんみんなが帰っていって、
私達だけになる。
休み時間よりも給食よりも、何より一番楽しい時間だ。

放課後の教室では、今日も友達と他愛もない話を繰り広げるのだ。
「私の推しね、今日が誕生日なんだ〜!」
「え、だれだれ?」
「えーっとね、この子!」
友達が鞄から雑誌を取り出して、ある男性を指指した。
「え、カッコいい!」
「この人俳優なんだけどさ、最近めっちゃテレビに出てるんだよね〜!
今度、月9の主演やるんだってさ!」
流行りに疎い私は、その俳優がそんなに人気だと知らなかった。
流行りに疎いせいで話についていけないことも多々あるが、別に苦しくは無かった。

時計が5時を指した。
「あ、もうそろそろ帰らなきゃ」
本当はまだここにいたいけど、みんなで帰ることにした。
「明日って歴史あるっけ?」
「あるよ〜」
「うわー嫌だな―。先生の声、睡眠導入剤すぎない?」
「もはやあれは催眠術でしょ」
帰り道もみんなと笑い合う。
この時間がずっと続けばな、なんて思う。

「じゃあね〜」
分かれ道で友達と別れた。
友達の背中を見届け、私は帰路についた。
俯きながら。

「…ただいま。」
家に帰ると、今日も両親が口喧嘩をしていた。
私は音を立てないように2階に上がり、自室に籠った。
私が笑えるのは、学校にいる間だけ。
放課後まで。

10/12/2024, 10:39:25 AM