YUYA

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**「伝えられない想い」**



玲奈は、その日も駅のホームで待っていた。いつもこの時間になると、彼が乗っている電車がやってくる。彼の名前は恭介。大学の同級生であり、長い間の友人でもある。二人は一緒に笑い、一緒に困難を乗り越えた。けれど、それ以上の関係には進むことができないまま、時が過ぎていた。

玲奈は何度も、恭介に対して特別な感情を抱いていることに気づいていた。友情を超えた想い。それを伝えたいという気持ちも何度も胸の中で湧き上がった。しかし、いつも何かが玲奈の言葉を押しとどめた。

「伝えてしまったら、今の関係が壊れてしまうかもしれない…」
その恐れが、玲奈の胸に深く根付いていた。恭介とは、すでに何でも話せる親友としての信頼関係があった。それを壊してしまうリスクを冒すことが怖かった。

電車がホームに滑り込んできて、恭介の姿が見えた。いつもと変わらない、彼のさわやかな笑顔が玲奈に向けられる。玲奈も自然と笑顔で応えたが、心の中ではその笑顔が胸に刺さった。彼の笑顔を見るたびに、自分の気持ちを押し殺すことがどれほど辛いかを感じていた。

「玲奈、また待っててくれたんだね。今日も一緒に帰ろう。」
恭介はそう言いながら、玲奈の隣に並んだ。二人はいつものように話しながら歩き始めた。授業のこと、共通の友人の話、そして何気ない日常の出来事。会話は弾み、笑い声が絶えない。だけど、玲奈の心の中には一つの言葉がずっと渦巻いていた。

「言わなきゃ。伝えなきゃ…」
そう思いながらも、口にする勇気がどうしても湧いてこない。彼がどんな反応をするのか想像すると、体が硬直し、心が重くなる。

歩きながら玲奈は、ふと横目で恭介を見つめた。彼の横顔は、いつもと変わらず穏やかで、安心感を与えてくれる。だけど、その横顔に向かって「好きだ」と言ったら、彼の表情がどう変わるだろう。戸惑うのか、それとも笑って受け入れてくれるのか。それが分からないことが、玲奈の恐怖の原因だった。

やがて、二人は駅近くのいつものカフェに立ち寄る。座り慣れた席に腰を下ろし、玲奈はコーヒーのカップを手に取った。湯気が立ち上るそのカップを見つめながら、彼女は再び心の中で言葉を押し込む。

「やっぱり、今は言わない方がいい…」
その選択は何度もしてきたものだ。だけど、その度に言えなかった後悔が少しずつ積み重なっていった。

ふと、恭介が玲奈を見つめ、静かに言った。
「実はさ、ちょっと話したいことがあるんだ。」
玲奈の胸が一瞬、跳ね上がる。もしかして、彼も同じ気持ちなのか? 彼も自分と同じように、この関係を超えたいと思っているのだろうか?

「実は、俺…最近気になっている人がいてさ…」
その言葉を聞いた瞬間、玲奈の心の中に冷たい風が吹き抜けた。彼が伝えようとしているのは、自分ではない。彼が今から話すのは、彼の好きな人の話だと、すぐに悟った。

「彼女とはまだそんなに話したことないんだけど、すごく優しくて、気が合うんだよね。俺、どうやってアプローチすればいいのか、玲奈に相談したいんだ。」

玲奈はその瞬間、自分がどれだけ言葉を飲み込んできたかを痛感した。そして、その飲み込んだ言葉が今、自分を苦しめていることを感じた。

「そっか…」
玲奈はかすかに微笑んで、震える声で応えた。
「応援するよ、恭介。きっと、うまくいくよ。」

それだけしか言えなかった。自分の心の中にある想いを押し殺し、彼のために笑顔を作り続けることが、今の玲奈にできる唯一のことだった。

カフェの帰り道、二人は再び並んで歩いた。しかし、玲奈の中では先ほどの言葉がずっと響いていた。「もし、もっと早く伝えていたら…」という後悔が、彼女の心を蝕んでいた。

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玲奈はその日、部屋に戻ると静かにベッドに座り込んだ。手にはずっと見つめ続けた携帯があったが、恭介に何もメッセージを送ることはできなかった。

「伝えられないままだったな…」

玲奈は、自分の想いを胸の奥深くに押し込めながら、眠りについた。明日もまた、彼女は笑顔で彼の友人であり続けるだろう。そして、その笑顔の裏に隠された本当の気持ちは、誰にも知られることなく、静かに消えていくのだろう。

彼女の本気の恋は、告げられることなく、そっと終わりを迎えたのだった。

9/12/2024, 10:21:13 PM