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「水の器」といわれたのも、夜のあじさいをみれば頷ける。

薄い藍色は、時にガラスのようにはらはら透けながら、夕闇にひっそりと隠れてしまう。

その葉陰に蛍が光って、夢幻の花をみせる。花びらに浮かぶ露は月光を吸い込んで、淡いゆらめきを湛えている。

梅雨の水面を映したような、静けさのある花だと思った。


「この子たち、海蛇だったのよ。」


君の言葉を、昔は笑った。どうして海蛇なんだろう。相変わらずファンタジーな世界に生きている君らしいと思った。

でも、虫の音もしない梅雨の夜にひとり。
しっとりと濡れるあじさいは、まるで生きているようにみずみずしく、あでやかに咲き誇っている。

あじさいは「水の器」という意味があるんだ、と教えたのは僕だけれど、君はそれを海と解釈したのかもしれない。

たっぷりと水を含んでいるあじさいは、確かに陸に咲く小さな海のようだ。だから、母なる海をつかさどる神の姿に重ねていたのだろう。

でも、僕には今ようやく見える。
君にも、見えていたのだろうか。

無数のあじさいの中にひそむ青い海蛇が、
重い頭をもたげている、その姿が。




6/13/2023, 10:22:20 PM