天高く爽やかな風そよぐ日に2人で丘を登った。
頂上に着くと彼女は慌てたように走り出し、崖の縁に座って水筒のカップにお茶を注ぎ始めた。
僕は、もう走ると危ないよなんて笑いながらその後を追いかける。
お気楽な様子で一番に一息ついていた彼女の後ろにかがんで、柔らかい茶色の髪をすくめるてやると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
三つ編みにしてあげるよ。
そう言うと、彼女はカップのお茶が零れるほどに強く頷いた。
端を軽く止め終えたので、僕も彼女の隣に座った。
眼前の清らな紅葉をそっちのけに、二人で夢中になって話した。と言っても、僕は大抵聞き役だったけど。
学校の友達、水泳クラブ、近所の子猫のみーちゃん、ランドセルの色。
順番なんかない奔放な話題にかき乱されて楽しかった。ああ、そう。そうなんだ。へぇ。それで。
何となくで相槌を打ってやるとますます彼女は加速した。
すっかり日が暮れた頃、話つかれたのか突然沈黙が訪れた。そのついでに、何となく、ただ何となくこの先のことを思って母さんの事よろしくなと呟いた。
うんともすんとも返さないので隣を見ると、
彼女は真ん丸な目をこちらに向けていた。
「にいに、死んじゃうの?」
涙声で聞かれて俺は驚いた。そんなわけないじゃんと大笑いして返す。ちょっと旅に出るんだよと付け加える。
「じゃあ、あたしも行く」
大声で返されて、だろうなと思った。
もっと大人になってからな。
そう言って彼女の頭を撫でたが、ついに泣き出してしまった。
慰めようにも声が通らないので困る。
ちょうど食欲をくすぐる、香りの強い秋風が吹いた。
彼女の小さな三つ編みがゆらゆら揺れた。
ああ、なんかお腹すいたなぁ。
「やっぱり嘘だよ。もう今日は帰ろっか。」
涙の止まらない彼女だったが、意外と素直におぶられた。そのうち寝息が聞こえてくる。
その帰り道、風は夜のものになり少し冷たかったが、背中越しの彼女の体温はひどく心地よかった。
10/18/2024, 3:09:01 PM