一夜明けただけで、ウェブ広告の文字もテレビCMも一気に「ハッピーニューイヤー」「新春」の文字であふれかえる。年が変わっても、毎日は何も変わらないのに。
放り出しかけたスマホが立て続けに鳴った。メッセージアプリを開くと、華麗にターンする馬のイラストの後ろで「Happy New year」の文字が踊るスタンプ。
——あけましておめでとうございます!
——明日、待ち合わせ駅前でいいですか?
老舗の洋菓子店の店頭にクリスマスケーキをキャンセルできないかと相談に行ったのは、イブの前の日だった。そんな直前に頼んでも断られること間違いないのに。今思うと、誰かに知ってほしかっただけなのかもしれない。クリスマス前に壊れた恋があったこと。
「キャンセルはお受けできないですけど」
対応してくれた若い女性店員——矢島ちゃんは、にっこり笑って言った。
「たとえばケーキ自体を小ぶりに変えて、違う味のものを3つお作りすることは出来ると思いますよ?」
あのお店のオーナーがあんなに若い人だとは想像もしていなかった。ケーキを受け取った後も変わらずお店に立ち寄る私は、結構意外だったらしい。
「うちを見るのも近くを通るのも、もうお嫌なんじゃないかと思ってました」
クッキーの袋を手渡しながら矢島ちゃんが言う。
「だってケーキに罪はないし。こんなことでここのスイーツを避けるのも、なんか癪だから」
だけどひとりの年末年始はなんだか味気ない、と私はつい本音を零す。外出予定は、見事にすべてなくなっていた。
彼女はいたずらを思いついた子どもの顔になる。
「どこも行くとこないなら、初詣付き合ってもらえません?」
あの約束、冗談じゃなかったんだ。
数日前までは、特に関わることもなかった人なのに。
年が改まっても、胸の奥底は相変わらず苦しいままで。甘えるのが申し訳ないような、出かけること自体めんどくさいような気持ちもありながら。
お誘いに乗らせてもらうことにして、新年っぽいスタンプを私は検索しはじめた。
『新年』
1/2/2026, 9:59:25 AM