G14(3日に一度更新)

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『Sunrise』『昨日と違う私』『そっと包みこんで』


「フハハハハ。
 やったぞ!
 ついにやったぞ!」

 私は布団の上で高笑いしていた。
 前々からの悲願である『早起き』を果たしたからである。
 『早起きが悲願?』と思われるかもしれないが、私にとって『早起き』というのは奇跡にも近い所業であった。

 というのも私はどうしようもなく朝が弱い
 アラームを設定しても起きれず、しょっちゅう学校に遅刻している。
 そのため授業の一限目にはほとんど出たことがなく、それどころか昼休憩の時間に登校するのも珍しくない。

 当然友達との約束の時間に間に合った事は無く、ついには『ヤツとの午前の待ち合わせはNG』と学校中で噂になったほどである。
 そんな私を、友人たちは『永久の遅刻魔』と呼び恐れた。

 馬鹿な自分は、二つ名を貰って調子に乗っていたのだが、昨日のHRの後に担任に呼び止められたことで事態は一変する。
「お前、このままだと留年な」
 死刑宣告に等しい言葉に、さすがの私も危機感を覚え対策を練ることにした

 だが普通にアラームをセットしても起きることは出来ない。
 だからと言って、他にいい方法もない。
 そこで考えたのが、アラームの設定をたくさん設定する事。
 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。
 一分ずつずらして100件設定すれば、どこかで起きることが出来ると踏んだのだ。

 そして今日、なんと90個目のアラームで起きることが出来た。
 今から走って行けばHRに余裕で間に合う。
 素晴らしい。
 これならば遅刻せずに登校出来る。

 革命である。
 革新である。

 さようなら、昨日までの私。
 こんにちは、昨日と違う私。
 これで遅刻魔の汚名も返上だ。

「おっとこうしちゃいられない。
 とっとと家を出よう」
 早く起きれたとはいえ、時間に余裕があるわけではない。
 私は朝食の食パンを口にくわえ、私は家を飛び出す。

「遅刻、遅刻~」
 家から出ると、朝特有の気持ちのいい空気が流れていた。
 起きた時はいつも日が高く昇っているので、こうして早朝に出るのは久しぶりである。
 道を急ぐサラリーマン、集団登校する小学生、自転車で私を追い抜かす同級生。
 なにもかもが新鮮で楽しい。

「素敵な朝ね。
 もしかしたら運命の出会いがあるかも」
 私は年相応に、まだ見ぬ運命の相手を妄想した。

 それがいけなかった。
 曲がり角に差し掛かろうとした時、角から人が出てきたのだ。
 妄想に夢中だった私はとっさに反応できず、そのままぶつかって転んでしまった。

「イタタ、まさか本当にぶつかるとは……」
 注意一瞬怪我一生。
 アホなことは考えるものでない。
 自分の迂闊さを呪いつつ強打した尻をさすっていると、目の前に手が差し伸べられる。

「ごめん、前を見てなかった。
 立てるかい?」
「いいえ、こっちも考え事してて――
 えっ」

 手を差し伸べてくれた相手はなんと、ストライクゾーンど真ん中のイケメンであった。
 金髪碧眼の日本人離れした風貌で、高貴な雰囲気を纏いまるで異国の王子様。
 ゲームや漫画にしか出てこないような美貌は、私の芽を釘付けにする。
 彼の金髪は朝日に照らされて輝き、まるで――

「Sunrise」
「え?」
「いえ、何でもないです」

 あまりの美貌に思わず心の声が出てしまった。
 迂闊な妄想はケガの元と分かっているのに、なぜ口に出してしまうのか?
 要反省である

 それにしても、相手が日本人ではないからと言って、まさか英語で感想が出て来るとは……
 私、だいぶテンパってる。

「それで、大丈夫?」
「はい、大丈夫で――痛っ!」
「足をひねってるみたいだね」
「うう、これじゃ留年しちゃう……」

 なんてことだろう……
 遅刻しないために早く家を出たのに、これではもう間に合わない
「ごめんね。
 僕の不注意であ悪いことしたね
 なら!」
「えっ」

 王子様に抱き上げられて、お姫様抱っこされる。
 心の準備が出来ていない私は、ただ口をパクパクさせるだけで何も言えなかった

「ごめんね、急にこんなことして」
「……いえ……」
「強引だと分かっている。
 でも怪我をさせた責任を取らせてくれ!」
「責任……」
「ああ、僕が責任をもって、学校に連れて行こうじゃないか!」

 なんて素晴らしい人なんでしょう。
 前方不注意の自分が悪いのに、責任を取ってくれるとは!
 今まで出会った人の中で、一番優しい人だ。
 普通の同級生ならばこうはいかない。

 ひょっとして向こうも私に運命を感じてくれたのだろうか?
 もしそうならば、こんなに素晴らしい事は無い。

 これはきっと運命の出会い。
 これをきっかけに、私たちの距離は縮まり、最後は一緒になって――


 ◇

 ピピピピピピピピ――

 聞きなれたアラームの音が周囲に鳴り響く。
 ふと周囲を見渡すと、目に映るのは見慣れた自分の部屋。
 なんでこんなところにいるのかと、一人首を傾げる

「あれ王子様は……?」
 いつのまにか王子さまはいなくなっていた。
 そしてお姫様抱っこされていたのに、今は布団の中。
 どういうことだ?
 霞がかかったような頭で考えることしばし、衝撃の事実に気づく

「まさか、夢……?」
 夢。
 王子様もなければお姫様抱っこもない。
 あるのは私をそっと包み込んでくれている布団だけ。
 すべては私の夢の中の出来事だ。
 私はどうしようもない絶望感に襲われる。

 私は信じられない思いで、スマホの時計を見る。
 時計を見ると、朝のHRの十分前。
 起きたと思われた時間より10分後の時刻だった。

 自分が設定した100番目のアラームで、尊厳を殴り捨て全力疾走すれば何とか間に合うと言う、最終防衛線の時間だ。
 今から走ればまだ間に合う。
 だが――

「ま、いっか」
 私は寝ることにした。
 だってそうでしょう?

 学校と王子様。
 比べるべくもない。

 それに遅刻もあと一回くらいなら遅刻は大丈夫。
 先生も『このままだと』って言ってたから。
 つまり誤差である。

 というわけで――

 さよなら、昨日と違う私。
 また会ったね、昨日までの私。
 今日も一日お願いします。

「おやすみなさい」
 私はもう一度王子様に会うために、もう再び夢の中へと旅立つのであった

5/27/2025, 1:46:22 PM