薄墨

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ああ、明日から三連休なのか。
夜風に風鈴がチリン、と揺れる。
つけっぱなしのテレビから流れる声で、私は初めて、三連休の訪れを知った。

最近はカレンダーを見ることがめっきり減った。
スマホを携帯するようになって、手帳やカレンダーを見なくてもよくなったからだろうか。
仕事をするようになって、一日一日が慌ただしく、ぎゅっと詰まって矢のように過ぎ去るようになったからだろうか。

もともと、ものぐさだった私は、日付や曜日をしっかり把握しなくとも生きていける今にかまけて、すっかり曜日感覚と時間感覚を失ってしまっていた。

書類の日付と、スマホの日付と、カレンダーの日付を確認して、今日のカレンダーを探し当てる。
過ぎてしまった月のカレンダーを繰って、でも剥がすのは面倒で、結局、カレンダーの過去のページと未来のページの間に顔を埋めたまま、予定を書くことにする。

一人暮らしというのは、気楽過ぎてまるで、炭酸の抜けたサイダーみたいだ。
特に私の生活は、炭酸が抜けておまけにぬるくなってしまっている気さえする。

朝ごはんはいつも同じメニュー。
片付けと皿洗いは後回し。
休みの日は、ヨレヨレのパジャマから、ヨレヨレの部屋着に着替える。
出かけるとなったら、取り込んだまま放ってある洗濯物の山から服を引っ張り出して着替える。
窓際で秋風に揺られる風鈴の隣には、くたびれたてるてる坊主が項垂れているし。
採寸がめんどくさいと、家具をケチった結果に、平積みにされた本の柱が、床からにょっきり生えている。

第一、4ヶ月も遅れたカレンダーが、私の気の抜けた炭酸生活の生ぬるさを物語っている。

「ぬるま湯に浸かってばかりだと風邪をひく」
そんな格言を知ったのはいつだったか。
知った時は腑に落ちて、いっそ自分の座右の銘にしようと思ったはずなのに。
今の私と来たら、風邪をひくだけでは飽き足らず、ぬるま湯でふやけてしまっているような気がする。

…三連休か。
ここで、「ようし、三連休も徹底的にダラけてやろう!」と潔く諦められるなら、芯のあるアルデンテなものぐさだな、くらいの評価は得られるだろう。
しかし、私は所詮、伸びたラーメンくらい芯がナヨナヨなものぐさ。
この期に及んで、私の頭は、どうにか三連休を充実したものにできないか、と、悪あがきを続けている。

だいぶ涼しくなってきた夜風が、風鈴を揺らす。
くたくたのてるてる坊主が、小さく会釈した。

9/11/2024, 3:00:53 PM