未知亜

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 深煎りは83度。
 珈琲を淹れる時のお湯の温度だ。
 珈琲豆の歴史とか産地ごとの特徴とか、行きつけのお店のおすすめとか、星の数ほど披露された知識のなかで、なぜか唯一覚えていることだった。

 休日の朝は早起きして、熱心に道具を整えていた。珈琲一杯にどれだけ手間と時間をかけていたのだろう。注ぎ口が観葉植物の茎みたいに細いポットから、少しずつお湯を注いでは薄茶の雫が落ちるのを眺め、時が止まるようなこの時間が好きだなと、あなたは笑った。

『時を止めて』

11/6/2025, 9:56:52 AM