おへやぐらし

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この世界は、ある時を境に宇宙人の侵略が始まった。そして生き残った僕は、今この瞬間も、
現在進行形で宇宙人たちと戦っている。

モニターA
『外部に敵が接近中!全隊員に告ぐ!
全機出動せよ!』
『『『了解《ラジャー》!』』』

モニターB
「ねえ、きみ大丈夫?具合悪そうよ?」

モニターA
『ぐっ、敵の数が多すぎる!
ただちに応援を要請する!』

モニターB
「大丈夫、大丈夫よ。ほら、深呼吸して。
吸って〜吐いて〜リラーックス」

モニターA
『隊長!隊長!呼吸を封じられました!』
『やつら、なんて姑息な真似を……!』

そう、宇宙人らは"呼吸封じの能力"を持つ。
あれを食らえば、脳や体に酸素が行き渡らなくなり、思考力低下、手足の震え、酸欠を引き起こす。
きわめて恐ろしい技だ。

モニターA
『ぐああああああ!!!』
『戦闘機インヴェガがやられた!』
『お前らだけでも逃げろっ!』

戦闘機が木っ端微塵に粉砕される。
鳴り響く警報音。赤く染まる宇宙船内部――。

モニターB
「少しはラクになった?」

ちがう、ちがう、ちがう。
深呼吸なんてできるはずがない。
そんなことしたら、殺される。殺されるんだ!

宇宙人たちの視線が僕に一点集中している。
早くこの場から逃げ出さなければっ!

閉鎖されたラボから飛び出した僕。
途中で誰かにぶつかるが、構わず走った。

「なんだあいつ、やべえな」
「頭にアルミホイルでも巻いてんじゃねw」

後ろから話し声が聞こえる。
あいつらは無知で愚かな連中だ。この世界が宇宙人に侵略されている事実に気づきもしない。

――

「こんにちは。体調はどうですか?」

白一色の病室で、白衣の先生が優しい微笑みを浮かべている。この狂った世界で、僕の話が通じる数少ないまともな人物だ。

今までの軍医はどれもヤブ医者ばかりだった。
僕が真剣に報告しても、
返ってくるのは嘲笑、侮蔑、軽い返答。
そして最後には、食後のコーヒーのように
白い錠剤がお出しされる。

『これで気分が少しは落ち着くはずだから』

巫山戯るな!!
こんなものでやつらは倒せないっ!!!

けれど、先生は違う。宇宙人との戦闘ログを事細かく記録したレポートに目を通しながら、
先生はゆっくりと眼鏡を外した。

「今回も厳しい戦いだったようですね」
「はい。やつらはそこら中に潜んでいます。
油断はできません」

先生は深く頷くと、そっと僕の肩に手を置いた。

「君には、同じように苦しむ同胞たちを救う使命が
ある。君は彼らの英雄になるんだ」

――

部屋で一人、処方された錠剤を水で流し込む。
窓の外に広がる淡い青空を眺めながら、
ふと、奇妙な考えが頭をよぎった。

もしかしたら、宇宙人なんて本当はいないのでは?
おかしいのは僕なのか。それとも世界のほうか。

『君は英雄になるんだ』

先生の言葉が胸の中で反響する。
そうだ。この世界には、今もどこかで宇宙人に怯え、助けを求める人々がいる。
彼らの祈りを無視することはできない。

僕はひとつ、深く息を吸い――吐いた。
さあ、今日も戦いが始まる。
宇宙人たちとの、果てしなき戦いが。

お題「心の深呼吸」

11/28/2025, 8:00:09 AM