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 手袋を片方よく落とす。凍えるような寒い朝なのにまた落としてしまった。手袋の手に荷物を持ち、片方の手はポケットに入れて歩く。

 冴えた空気の中、日差しは強い。長いコートに大きめの紐履、まるでペンギンのような影ができている。ペンギンがペタペタ歩いている。今日は、会うかな?と思っていると、「おはよう」と声がして、もうひとつ影が並んだ。

 「そんな格好していると、転ぶよ」。「手袋落としたから」。「また? よく落とすよねえ」。何だか自分でも腹ただしくなってきて、思わず足を早めた。すると、隣に伸びる影からすっと手が伸びてきて肘を掴まれた。ポケットから出た手を手袋の手が包む。「特別に今日は手を掴んでいいよ」と言う。

 「貸してくれるんじゃないの?」。「こっちが寒いでしょ」。手袋の手は大きくて、とてもあたたかかった。この人は、時々こんなずるいことをするんだと思いながらも、つい笑ってしまった。


「凍える朝」

11/2/2025, 6:51:42 AM