『誰かのためになるならば、自分を犠牲にしてでも護るよ』
いつかの昔。
かつてヒーローだった頃、かつての仲間に向けて言った言葉。
そのときの、仲間のかおが、声が、言葉が、思い出せない。
護るべきものが、確かにあったころ。
結局、その護るべきだった人たちは護れなかったけれど。
未だにそのときのことがフラッシュバックして、後悔と未練で焼き尽くされそうになる。
でも、乗り越えないと。未練を捨てないと。
そう思いながら、日々胸の奥の痛みと闘っている。
「護るべきもの…か」
微かにひぐらしののなく声が聞こえてくる田舎。
予定の空いていたメンバー数人であるところの旅館に泊まっていた。
一足先に風呂から上がった僕は、丸い月のような窓枠に腰掛けて思いに耽っていた。
「透?」
誰かが入ってきた音に気付かなくて、うわあっ、と声を上げて窓枠から転げ落ちてしまった。
「わあ、大丈夫ですか?」と、彼から手を差し伸べられたから、その手をとった。
ふわりと広がった黒い癖っ毛は、濡れたまま緩く結われている。
その姿が、そういう意味ではないけど妙に艶っぽい。
「物思いに耽るなんて珍しいじゃないですか。なんかありました?」
そう言うと、彼は二人分の酎ハイ缶の一つを差し出した。
「吞まないんですか?…なら俺が飲んじゃおっかなあ?」
そう言われたので、僕は目の前の缶を取ってプルタブを開けて一口飲んだ。
勢いで吞んだからか、喉が灼ける感じがした。
「あは、結局飲むんじゃないですか。じゃあ俺も飲も」
彼はカシュッと音をさせて缶を開け、こくこくと喉を上下させて飲んでいた。
「それで?話を聞かせてくださいよ。護るべきものとやらの話」
酔いやすい性質なのか、既に少し頬を紅潮させた彼は、いつもよりも高いトーンでそう言った。
7/26/2024, 10:38:04 AM