白眼野 りゅー

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「あ、これ、彼女に買っていったら喜ぶかな」

 と、ゴマ豆乳プリンのカップを手に取った直後に思い出す。……もう、そんなことをする必要もないのか。


【まだ知らない世界に、一人】


 もう、好きでもないプリンをわざわざ買って帰る必要はないし、知らないアニメとのコラボ商品をわざわざ選ぶ必要もなければ、タバコを買うときに『不健康だ』と怒る君の顔を思い浮かべる必要もないのだ。

 それは、君と出会う前の僕と全く同じ状態に戻っただけのはずで、だから世界が変わったなんて言ったら大袈裟になってしまうのだろう。……けれど驚くべきことに、昨日から、僕は僕の知らない世界に迷い込んでしまったみたいだ。

 そんな冒険、僕は求めていなかったのに。こんな景色を見たいだなんて、いったい誰が願ったというのだろうか。

「……ゴマ豆乳プリンって、どんな味がするんだろう」

 一面見知らぬ景色の中で、少しでも見たいと思える世界を必死で探す。きっと君ならよく知っているだろう景色。僕がもっと早くそれを知っていたなら、こんな見知らぬ世界に迷い込むこともなかったのだろうか。……なんて。

5/17/2025, 1:06:39 PM