ずい

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『届かぬ想い』

かつて共に旅をした勇者がいた。
この世界はゲームで、自分はプレーヤーだという。異世界人、救世主、彼のような者を指す言葉は知っていたが実際に見るのは初めてだった。

多種多様な民族が住まうこの世界で。
驚くべきはその懐へ入る手腕と人柄だった。
剣を持てば筋肉痛になり、魔法のセンスは皆無ときた。
ハズレだと見放そうと思うことも何度かあった。

その瞳から、光が消えたのはいつだったのか。
魔王を倒し、互いに巡業が重なり離れて過ごすことが増えたある日。彼が魔王として君臨したと聞いた。

すぐさま会いにいこうとするも王国を守れと止められる。逆らえば俺も死罪に処すという。数年前にこの国を窮地から救ったのは、俺たちだというのに。
会うことさえ許されないなら、つのる想いを届けられぬのならば文を書こう。
かつての仲間は誰一人として討伐隊に加わることを許されなかった。
魔王を倒すべく現れた新たな異世界人へ文を託そう。

ばかやろう、戻ってこいと。
愚痴を言い合う相手はここにいるぞと。
いつの日か戦うことが怖いと、人と魔族と何が違うのだと、薄暗い洞窟の中で戸惑い苦悩する彼の姿を、ふいに思い出していた。

4/15/2024, 10:36:16 AM