しののめ

Open App

 むかしむかしの話。

 私にはかつて近所の公園で遊ぶ学年違いの
同性の友達がいた。
 同じ学校に通う近所に住んでいる友達を仮にAとしよう。

 Aは私の家とそう離れていない住宅地に住んでおり、苗字もなかなか聞かないような名前だったからよく覚えている。
私とAは近所の公園で出会い、Aが一人で遊んでいたところを私が声をかけたことが知り合うきっかけだった。

 知り合って以来、私とAは時折公園で遊ぶようになった。お互いに遊び道具を持ちより、ままごとの真似事をしたり、バトンを振り回したり、一輪車で広場を走り回ったりと、年頃に相応なことをしたことを断片的に覚えている。

 ある日、私とAはそれぞれお気に入りの玩具を持ち寄り、いつものように公園で遊んだ。私は細かいビーズを編むように繕われているネックレス、Aは兎のぬいぐるみであった。

 Aが大事そうに抱えている兎のぬいぐるみを見て私は心底羨ましいと思った。

 私は当時、欲しいものをなかなか買って貰えないという環境であった。しかも当時人気だったデザインの兎であったものだから、Aが学校であったことを色々話してくれていたが、全然頭に入ってこなかった。

 私は無意識にポケットの奥に入っていたビーズの指輪を取り出していた。

 兎のぬいぐるみとこのネックレスを交換しない?ネックレスに指輪もつけるよ。悪い話じゃないと思うんだけど、どうかな。

 少しだけ読んでいた漫画で、取引をするシーンが頭をよぎった。取引を持ちかけたキャラになりきりながらAに言った気がする。ネックレスも指輪も綺麗で、正直手放すには惜しいとは思ったけれど、それを容易く上書きするくらい、当時の私にはぬいぐるみの方が魅力的に思えた。Aは快く承諾し、私たちはお気に入りのものを交換することとなった。

 それからAとは自然と疎遠になってしまった。

 元々Aとは学年も違く、公園で時折会って遊ぶだけの仲だったので、いずれは疎遠になっていくだろうとは薄々思っていたが、今振り返ってみると思いの他早かった気はする。

 最近になって実家に帰り、近所を散歩してきた。Aの家を前を通り過ぎたが、家も表札も全然知らない姿となっていた。

 今も私のそばにいる兎のぬいぐるみ。

 ぬいぐるみのことは家族にも誰にも言っていない。

【誰にも言えない秘密】

6/6/2024, 8:05:35 AM