【夢じゃない】
雨が激しくアスファルトを叩く日だった
耳をつんざくような雷鳴に急かされるように
俺は自分の家へと走っていた
けれど急ぐ理由は雨や雷のせいばかりではなかった
後ろから得体の知れない「なにか」が追ってきているのだ
黒い影のような輪郭を持たないそれは
人間が走るような形になって俺に迫ってくる
――捕まったら殺される
見た瞬間、直感でそう思った
全速力で駆けても距離が開かない
いつまでも同じくらいの距離で逃げ続けている気がした
だが、こちらには体力や疲れというものがある
必死で走っているのに、じわじわと距離を縮められていく
やがて足がもつれて転んだ瞬間
「なにか」は俺を捕まえて――
そんな、ひどい夢だった
目が覚めるといつも通りのベッドに寝ていた
嫌な夢だった
ふと、自分以外の人間が部屋にいることに気づき
思わず息が止まりそうになった
「おい」
声をかけると、そいつがゆっくりと振り向く
そいつは、「俺」だった
「俺」はこちらに向かってニヤリと笑った
自分でも見たことがないその表情に血の気が引いた
はっとして自分の手を見る
手は、輪郭を持たない黒い影でできていた
8/8/2025, 10:44:58 AM